最年少の死刑囚
陶静は中国では非常に有名だ。
陶静が銃殺刑に処せられた当時、共産党政権成立後の中国で最年少の死刑囚だったのがひとつの理由だ。
しかしそれ以上に美人死刑囚として名高い。
当時は生々しい死刑囚の画像が公開されていたため、多くの中国人が死刑囚の容貌を見ることができた。
報道される死刑囚の中で、確かに陶静は秀でた美貌の持ち主だったのである。
人物像
陶静は1971年生まれ。雲南省の出身だ。
幼少期に父母が離婚したが、姉が裕福な男性と結婚したために、その男性の支援を受けて高校卒業後は美容室を開業している。
そのまま美容室の経営を続けていれば平穏な人生が待っていたはずだ。
しかし彼女は楊という男と知り合い、泥沼に引き込まれてゆく。
楊は国外の薬物販売組織の構成員であった。
陽は自分の末路を覚悟していたのか、あるいは単に面倒を避けるためか、陶静の体内に避妊具を挿入させた。
現在IUDと呼ばれているタイプの避妊具だ。IUDは一時期の中国では多用されていたのだ。
このことだけでも二人の親密な関係性が理解できる。
あるとき楊は陶静に薬物の「運び屋」になるよう持ち掛けた。
楊に頼み込まれた陶静は「運び屋」になることを承知した。楊は自分が渡らなければならない「危ない橋」を陶静に渡らせたのである。
摘発
初めて「運び屋」をすることになった陶静の不安は挙動に現れていたのだろう。
陶静は初めての薬物運搬の際に摘発されてしまった。中国の法律によれば薬物の運搬は、死刑に処せられることもある重大犯罪だ。
しかし必ず死刑になるとは限らない。
中国の刑事司法には「立功」によって罪が軽くなる規定がある。例えば共犯についての情報提供は「立功」に相当する。
だから楊についての情報や、組織についての情報を提供すれば、死刑を避けることができたかもしれないと言われている。
しかし陶静は口を割らなかった。
その理由としてはふたつの説がある。
ひとつは恋人である楊を守るためだという説だ。中国のウェブサイトには、このような解釈を示している例が多い。
しかし別の説もある。
薬物販売組織の「掟」を恐れたからだというのだ。
当時の雲南省国境付近では、しばしば不気味な死体が発見されることがあったという。
目が抉り取られ、舌、耳、鼻、生殖器が切り取られた死体だ。場合によっては切り取られた生殖器が口の中に挿入されていたという。
こうした死体がわざわざ人目につく場所に晒されることがあったというのだ。
これは組織の裏切り者、あるいは裏切り者の家族に対する制裁であり、見せしめであると言われていた。
もし組織の情報を提供すれば家族が殺される。陶静はそれを恐れて口を割らなかった。
恐らくそれが真相だろう。
最後の願い
中国の薬物犯罪への対処は厳しい。
陶静には死刑判決が下り、1991年10月28日に死刑が執行された。
陶静は死刑執行前にひとつの願いを口にしたという。
それは体内の避妊具を除去してほしいという願いだった。
そうすることで奇麗な体で死にたいと考えたようだ。
その願いは叶えられた。外科医が呼ばれ避妊具を除去したそうである。
厳しさの中の優しさとでも言うべきだろうか。
初犯で検挙され死刑に処せられた陶静に対しては同情の声もある。
しかし、もし最初の運搬で検挙されなかったとしても、同じことを繰り返すことになり、結局は摘発されることになったと思われる。
楊と深い関係に陥った時点で、処刑されるまでの秒読みは開始されていたと言うべきだろう。
陶静にリスクを負わせて自分は助かろうとした楊という男の卑怯さが際立つ事件である。それが私の感想だ。
Posted by Liu XiangHai
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