そもそも中国人は猿を食べるのか?
中国の古い医学書には猿の肉についての記述がある。
例えば『証類本草』には猕猴(びこう)という猿の肉が虚弱体質の人が風邪を引いたときの治療に効果があると記録されている。
酒に漬けた肉にはより優れた効果があるそうだ。また猿の干し肉はある種の伝染病の治療に効果があるとされている。
このような記録があるということは、かつての中国では猿の干し肉や酒漬けの肉が作られていたことになる。
『証類本草』は北宋時代(960年から1127年)の医学書であるから、少なくとも北宋時代には猿が食用にされていた可能性が強い。
しかし現在の中国では猿は保護動物に指定されている。法律上は猿の肉を食べるのも、猿の脳を食べるのも違法なのである。
また医学的にも人類に近い動物を食べることは危険であると言われている。人類に感染する未知のウイルスや細菌を保有している可能性を否定できないからだ。実際に致死性が高いエボラ出血熱はミドリザルから感染したと言われている。
このような事情があるので現在の中国では表立って猿を食べる習慣はない。ほとんどの中国人は猿を食べることに違和感ないしは嫌悪感を抱いているのだ。
しかし猿を食べる人がいないわけではない。
中国の食習慣には強い地域性があり、他の地域では食べない昆虫や小動物を日常的に消費している土地は珍しくないのだ。
この常識を前提としつつ中国における食材としての猿の肉および猿の脳味噌について紹介しよう。
密売される猿の肉
実は現在でも猿の肉は販売されている。もちろん豚肉や牛肉のように堂々と販売されているわけではない。
野生の猿を捕獲した人が密かに市場に持ち込んで販売したり食堂に売ったりしているのだ。これは違法な密売である。しかし売買の当事者が黙っていれば発覚することは滅多にない。だから猿の肉に対する需要がある土地では食材としての猿の売買が今でも続いているのだ。
猿の肉を食べる習慣がある土地では猿肉の売買に対する罪悪感がほとんどないようである。

皮を剥いだ猿の肉を自転車にぶら下げて売り歩いている写真を見たことがあるが、その周囲には人だかりができていて肉を買う人の姿も少なくない様子であった。
猿は珍しい食材であるから値段は高いという。単純に経済的な角度から見ると猿の肉を買う理由はない。また特に豚肉や牛肉などと比べて美味というわけでもないらしい。
ではなぜ猿の肉に需要があるのだろうか?
中国の一部では小児の虚弱体質の改善に猿の肉が効くと信じられているようだ。高い猿の肉を買う人は猿肉の薬膳的な効果を期待して購入しているらしい。
猿の脳味噌と闇の宴
猿の肉以上に多くの人たちが関心をよせているのは猿の脳味噌であろう。
現代の中国に猿の脳味噌を食べる習慣が本当にあるのだろうか?
実は大多数の中国人はこの謎に答えられない。そもそも中国のほとんどの地域では猿を食べないからだ。
では猿食の習慣はどこにあるのだろうか?
中国では猿の肉や脳味噌を食べるのは広東だといわれている。この「常識」に対しては広東人からの異論もあるのだが、広東には猿の脳味噌を食べさせる店があると信じている人は多いようだ。
また猿の脳味噌を食べたという生々しい体験談のほとんどが「広東で食べた」という話である。中国で密かに語られている猿食体験談の内容をご紹介しよう。
特殊なテーブルで食べる「あの話」
これは大きな商談で「南方」のG市に出張した人物の話である。
その人物は取引先の接待で、あるホテルのレストランに赴いた。そのレストランの個室には中央に碗くらいの直径の穴があいた円卓があった。
しばらくするとレストランのマネージャーがやってきて、厨房の背後の部屋に全員を案内した。中国では客に食材を選ばせることがよくある。そのときも食材を選ぶために厨房の背後に案内されたのだ。
そこには数匹の猿がいた。しかし誰も食べるべき猿を指定しないので、マネージャーが薦める猿を食べることになった。マネージャーが選んだ猿は厨房に連れて行かれ、頭の毛を剃られてからレストランの個室に連れてこられたという。
店員は猿の手足をテーブルの脚に縛り付け、テーブルの中央の穴から猿の首から上が突き出した状態で固定した。
テーブルの席に着くと、テーブルの中央に猿の頭部だけが乗っているように見えたそうだ。もちろんこの時点で猿はまだ生きている。
店員はステンレス製の金槌で猿の頭を叩き割り、砕けた骨を箸で取り去った。
昔から猿の脳味噌は生で食べるといわれている。実際に接待してくれた男性は猿の脳を匙ですくい、タレを乗せた小皿に移して薦めてくれたという。
煮えたぎる油と麻酔薬
別の人物が広東で聞いたという食べ方は若干異なる。
客が猿を選び、その猿の頭部がテーブルの中央に固定されるまでは同じである。
しかしその時点で猿の頭の毛が剃られていただけではなく、穴があけられ脳が露出していたというのだ。猿には麻酔薬が使われているらしく、痛がる様子はなかったという。
店の説明によると以前は金槌で頭を割っていたのだが、近ごろでは血腥いやり方は流行らないので予め穴を開けているのだそうだ。
猿の体が完全に固定されると、サービス係が簡易コンロで油を熱し始めた。わずかに白煙が立ち昇るほど熱したところでサービス係はレードルで油をすくい、猿の頭の穴に注ぎ込んだ。
すると猿の頭の中から脳味噌が煮え立つ音が聞こえたという。最近は生のままの脳味噌は流行らないのだそうだ。
そこから先は同じである。匙で頭の穴から脳味噌をすくい、タレをつけて食べたそうである。
Posted by 編集長 妙佛大爺
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