電線窃盗のうま味と危険性

金属回収業者

中国にはさまざまな物品の回収業者がいる。

日本では家庭でいらなくなった金属製品は廃棄するのが普通であるが、中国では空き缶一個でも業者が買い取ってくれるのだ。

要するに金属は売れるのである。

電線もある程度の量がまとまれば回収業者に売ることができる。中の銅線がリサイクル可能な金属資源なのだ。

そこで、送電線を盗んで売り飛ばすという犯罪類型が成立するのである。

4000メートルの通信ケーブル

中国の電線窃盗は非常に大規模である。以下、いくつかの例を紹介しよう。

2015年11月のことである。

山西、陝西などの各地で通信ケーブル4000メートルを盗み、日本円で2000万円近い利益を得ていた2人組みの窃盗犯が逮捕された。

電線窃盗というと地味な犯罪のように思われるかもしれないが、日本円で2000万円といえば中国では巨額と言ってよい金額だ。

並みの強盗などよりも大規模な犯罪なのである。

彼らは昼間のうちにケーブルを観察し、夜間から明け方にかけてケーブルを切断して盗んでいた。

盗んだケーブルは1メートルほどの長さに切断して別の場所に運び、芯を抜き出して回収業者に販売していた。

20ヶ所で犯行を繰り返していたというから、被害はきわめて大きく、影響も広範囲に及んだようだ。

鉄道を危険に晒す

2015年4月30日午前2時ころ、徐州鉄道の防犯装置が作動した。

警察が急行すると、何者かが鉄道用の通信ケーブルを切断し、車に積み込もうとしているのを発見した。

警察はその男を現行犯逮捕した。

犯人は2006年に電信施設で同じような犯罪を犯し、3年の有期徒刑判決を受けた前科者であった。出獄した後に同じ犯罪を繰り返していたのだ。

これらの電線泥棒は一例である。

中国には電線泥棒が非常に多い。ケーブルは比較的高く転売できるうえに、監視の目が行き届かない。一晩中見張っているわけにもゆかないからだ。

命の危険

電線を盗むのは危険な行為でもある。

2014年7月14日のことである。

中華ハムの産地として有名な浙江省の金華で奇妙な光景が目撃された。電柱から人がぶら下がっていたのである。

人が死んでいるようだとの通報を受けて、警察と消防が現場に駆けつけた。

送電線の電気を止めてから、はしごでその男に近づくと、やはりその男はすでに死亡していた。

死体を収容して調査した結果、死因は感電であることが判明したのだ。

男はペンチなどの工具を携帯しており、切断された電線も発見されたことから、電線を盗もうとしている最中に感電死したものと判断された。

その地区では大規模な取り壊し工事が行われており、死亡した男は当地の電線に電気が流れていないと誤解したようである。

しかし実際には360ボルトの電圧がかかっていたのだ。感電死する危険が十分すぎるほどあったにもかかわらず電線にふれてしまったのだ。

死を招く送電線

高圧線のケーブルは一般的な電線と比べると非常に太く、良質の金属で作られている。しかも一区間の距離が長いので、切り取ることに成功すれば一回の仕事で大金を手に入れることができる。

それだけに高圧線を狙う電線窃盗は後を絶たない。

しかし高圧線には数万ボルトというレベルの超高電圧がかかっていることもある。

超高電圧の危険性は素人には想像もつかない。多くの未遂犯がケーブルを切断する前に感電死しているのが実情なのである。

目撃者の証言によると、人体が一瞬で火だるまになり焼け落ちるそうだ。

手慣れた電線泥棒が通信用のケーブルを狙うのは、送電線よりも電圧が低く危険性が低いからである。