中国の地下賭博事情

賭博のDNA

人間にはギャンブルに心を奪われる本能が具わっているようだ。

どれだけ禁止しても賭博はなくならない。

現在の中国では賭博は違法だが、様々な形態の賭博が行われており、そのこと自体は常識になっている。

中国では賭博が原因の家庭崩壊や犯罪のニュースは珍しくないが、そのようなニュースを聞いた中国人は「まさか賭博が行われているとは知らなかった」などとは考えない。

賭博で全財産を吹き飛ばす人がいるのは、中国では当たり前の話なのである。

闇の賭博場

では中国の賭博はどのような所で行われているのだろうか?

実は賭博の形態は様々である。インターネット賭博や知人同士の賭博は、特に決まった場所に集まる必要はない。

このような賭博も日常的に行われている。

その一方で、決まった場所に不特定多数の人間が集まり賭博を行う形態も少なくない。いわゆる地下カジノである。

地下カジノの雰囲気は場所によって大きく異なる。

飲料や食事が無料で提供される高級感のある地下カジノもあれば、露天に近い場にサンダル履きで集まるような博打場もあるのだ。

中国では農村から大都市まで不法賭博が蔓延しているため、賭博場のレベルもピンキリになるのだ。

賭博場の隠された法則

中国では「博打をすると10回のうち9回は負ける」という言葉がある。寺銭を考慮しても負ける確率が高すぎるのだ。

この言葉はイカサマが常態化していることを物語っている。

本来なら博打場の主催者は客同士に賭博の場を提供して寺銭を取るだけだから損をしない。寺銭だけでも莫大な収入になるのだ。

しかし人間の欲には限界はない。

カジノのオーナーはイカサマをすることによって、さらに収入を増やすのだ。そのためのサクラを雇ったり、イカサマの技術をもつ荷官(ディーラー)を抱えるのがカジノオーナーの常識である。

イカサマには人間の技術だけではなく電子機器を使う場合もある。騙すのが目的のプロ集団に素人の客が勝てるわけがないのだ。

しかも客はイカサマが行われているとは気づかない。運のせいと考えて諦めるだけならまだ救いがあるが、損を取り戻そうと考えて深みにはまって行くケースが少なくないのだ。

業務提携

特に農村部では賭博に手を出す人たちは大した財力を持たない。

しかし彼らが所有する不動産にはそれなりの価値があり、また農産物の収穫後にはまとまった収入が約束されている。

つまり手元の現金は少ないが、現金化できる資産を持っているのだ。

この潜在力を根こそぎ取り上げるのが農村部での賭博の恐ろしさである。

通常地下カジノには金貸しが常駐している。

カジノのオーナーと金貸しは一体であることもあるが、オーナーに資力がない場合には、都市部の貸金業者と提携することが多いと言われている。

貸金業者は法外に高い利息をつけて金を貸す。特に担保は取らないが、高額の貸し付けの場合にはカジノのオーナーに保証させるそうだ。

担保という制度は合法な貸し付けにおいてこそ意味がある。違法な貸し付けにおいては担保などよりも恐怖による支配が重要なのだ。

返済できなければ命すら奪われる。その恐怖こそが支払いを強制するのである。

この恐怖に支配されると、自主的に不動産や農作物販売権を担保に入れて合法な融資を受け、借り受けた金銭を使って違法な借金を返済するようになる。

これこそ金貸しの思うつぼである。金貸しにしてみれば農村の土地や農作物販売の権利を手に入れるよりも、現金を回収したほうがよいのだ。

合法な借金のほうが金利が安いので、借金をした側にとってもこの選択は合理的ではある。

ただし合法な借金を返済することはできないので、担保に入れた不動産や農作物の代金を失うことになるのだ。

闇カジノの究極的な目的は、客の潜在的な資産全体を現金化して丸裸にしてしまうことなのである。

摘発対策

ギャンブルで資産を失うと、家族の養育や子供の進学に支障が出るだけではなく、最悪の場合家族全員がホームレスになってしまう。

そのような家族が続出する事態になれば、社会不安につながりかねない。

現に賭博で作った借金を返済するための犯罪は珍しくないのだ。

そこで中国政府は賭博を禁止し、かつ取り締まっている。

ではなぜ地下カジノはなくならないのだろうか?

カジノは不特定多数の客を呼び込むことで成立するビジネスだ。不特定多数の人間を呼び込むのであるから、常にアンテナを張っている公安に察知される可能性が高い。

これに対しては地下カジノ側でも対策を講じている。

例えば客の紹介制である。不特定の大衆に向かって広告すれば、当局に察知されるのは時間の問題だ。

だから常連客が連れて来た人間だけを新たな客として取り込む方法は、特に都市部では広く普及している手法だ。

もちろん新たな客を連れて来た客にはインセンティブとして紹介料を払うのが常識である。この紹介料を中国では「拉腿子」などと呼ぶ。相場は1000元ほどだそうだ。日本円換算でおよそ1万5千円ほどになる。

またいったんホテルなどに客を集合させた後にマイクロバスで別の場所に移動してカジノの所在地を隠蔽する方法も使われている。

さらに掛け金を全てコンピュータで管理し、カジノでは現金やチップの移動を一切行わない運営方法もある。

しかし捜査員が客として潜入すれば、こうした工作はほとんど無効である。

マイクロバスで移動したところで、GPS装置などを使えば移動先はすぐに判明してしまう。また掛け金の移動をコンピュータ管理しても、コンピュータを押収すれば言い逃れはできない。

実際に摘発されたからこそ、このような事例が明るみに出ているのだ。

保護傘

地下カジノにとって最強の防衛手段は保護傘である。

保護傘とは公的な後ろ盾を意味する。具体的には地下カジノを開設している地域を管轄する公安の幹部との癒着だ。

地下カジノはいくら隠してもいつかは発見される。それよりも保護傘に守られながら客を集めたほうが儲けやすいのだ。

保護傘にはかなりの賄賂を支払うようだが、それでもカジノの収益に比べれば十分に合理的な「必要経費」なのである。

ある程度の規模以上の地下カジノは保護傘に守られていると考えてよい。

従って地下カジノが摘発されるときは保護傘も一蓮托生になることが多い。実際に毎年のように地方の派出所の所長が摘発されている。なお中国の派出所は日本の派出所ではなく警察署に匹敵する規模を持つ。

なぜ保護傘が機能しなくなるのだろうか?

客がキレるのが原因だ。地下カジノは負けた客が通報したり、マスコミにリークして発覚することが多いのだ。

かつてはそのような情報も保護傘がもみ消していた。しかし地元の公安が動かない場合には上級の組織に通報したり、マスコミへの通報を併用するなど、告発者も知恵をつけてきている。

客を食い潰す手法を変更しない限り、地下カジノは太く短いビジネスで終わる運命にあるのかもしれない。