病み付き料理の恐るべき秘密

入隊のための身体検査

中国では人民解放軍に入隊を希望する青年は、特別な身体検査と呼ばれる政治審査に合格しなければならない。

若くして入隊を希望する青年は軍人に対する憧れを抱いていることが多い。

兵役につくことが夢であったという南京の大学3年生Lもそんな学生のひとりであった。

大学構内の掲示板で募兵についての告示を見たLは、さっそく入隊のための身体検査を受けた。

数日後のことだ。軍の担当者からLに電話がかかった。翌日に再検査を受けろというのだ。

健康に自信があったLは奇妙に思いながらも指示されたとおりに再検査を受けた。

再検査の数日後、思いがけない展開が待っていた。Lのもとには不合格の通知が届いたのである。

MOR陽性

身体検査の項目にはMORと呼ばれるものがある。これは尿検査の一種であり、違法薬物を検出するためのものだ。

Lが不合格になったのはMORで陽性になったからである。つまりLはモルヒネに類する何らかの薬物を使用していたことになるのだ。

しかしLには全く身に覚えがなかった。

そこでLは自主的に3ヶ所の病院で尿検査を受けた。どの病院の検査でも異常は発見されなかった。

しかし軍の検査結果と病院の「異常なし」という検査結果は矛盾しないのだ。

MOR検査は警察や軍などの特別な施設だけが行う検査であり、一般の病院では検査できない。なぜなら一般病院には検査用試薬がないからだ。検査したくてもできないのである。

したがってLの尿が「異常なし」というのは病気の徴候がないという意味であり、違法薬物を使用していないという意味にはならないのである。

軍の情報

軍の担当者はMOR検査が特別な検査であることを説明したのち、気になる情報を付け加えた。

近年、入隊希望者の中にMOR陽性になる人が増えているというのだ。

これは奇妙なことである。常識的に考えれば、入隊のための検査を受ける前に違法薬物を使用するはずはない。違法薬物の検査が行われることは周知の事実だからだ。

今となってはLの検査でなぜ陽性の結果が出たのか確定的なことは言えない。しかし大いに疑われているのは検査前に食べた食事である。

薬物混入食品

驚くべきことに中国には料理にケシの実を混入させる店が少なくないのだ。

言うまでもなくケシの実はアヘンの原料である。当然、現在の中国では禁制品にリストアップされている。

しかしケシの実はいまだに広く流通しているようだ。ケシの実混入で摘発された飲食店は中国全土に散在する。陝西省、江西省、江蘇省、貴州省、四川省などで摘発が相次いでいるのだ。

ケシの実の乾燥品

実は食品にケシの実が混入されることがあるという噂は中国ではよく聞く話だ。

ケシの実混入料理と言えば「火鍋」とよばれる激辛鍋が代表格であった。

しかし現在では肉の串焼きや、中国で人気のザリガニ料理、さらには魚のスープや羊のスープなどでも混入が発覚している。

飲食店経営者の一部ではケシの実を混入すればいい加減な料理でもおいしく感じられるようになり、しかも病み付きになると信じられているようだ。

公安当局や衛生当局がいくら摘発しても根絶の兆しは見えない。むしろ以前に比べて拡大の様相すら呈しているのだ。

食品管理当局は外食をした後に心拍が速まったり、ほほが紅潮したり、睡眠に異常が生じたときは、当局に通報するよう呼びかけている。

火鍋料理

地域によっては専用の回線を設置して情報提供を呼び掛けている状況だ。

しかし飲酒しながら外食する中国では、多少の異常があっても「酒のせいだろう」で済まされてしまうだろう。

しかも原料の供給を止めることは事実上不可能だ。ケシのタネに需要があるからだ。

ケシのタネには禁止成分が含まれていない。日本のあんパンにも利用されているポピュラーな食品のひとつである。

ケシのタネを生産するためにケシは大規模に栽培されている。ケシの栽培自体は合法であるから、ケシの実だけを完全に監視下に置くことは困難なのだ。

「ケシの実を入れると病みつきになる」という伝説が完全に否定されない限り、今後もケシの実を混入した食品は根絶されないだろう。