10年も屋根裏に放置されていた白骨

慈溪市童家村

浙江省・慈溪市に童家という地区がある。このあたりには集合住宅が密集している。

多くの人が住むこの土地で慈溪白骨案(慈溪の白骨事件)と呼ばれる驚くべき事件が発生した。

2006年3月7日のことである。

童家の住民Mが屋根裏部屋の中を整理していた。そのとき南西の角から異臭が漂ってきた。

そこには古そうな木箱が置かれていたという。

木箱を開けると、中には男物の革靴を履いた2本の脚の骨が入っていた。

Mは自宅を建設した作業員のうちの誰かが、いたずらで置いて行ったものだと考えた。どうせ動物の骨で作った模造品だと思って深刻には受け止めなかったのだ。

Mは訪ねて来た息子にこのことを告げた。

屋根裏部屋の骨を見た息子は驚いて公安に通報した。息子の目には、それは模造品などではないように見えたからだ。

駆けつけた公安職員は、木箱の中に骨の他に刃物も収納されていることを発見した。それだけではなく、屋根裏部屋にあった複数の布袋から、人間の頭部と体幹部の骨が発見されたのである。

遺体の衣服はかなり傷んでいた。

ポケットの中からは身分証明書と名刺が発見された。

そこにはHという男性の名が記されていた。

異臭騒ぎ

付近の住民の証言によると、何年か前の夏にMの家の付近で異臭騒ぎがあったそうだ。

Mは夫との二人暮らしであったが、Mたち夫婦も異臭がひどいと言っていたそうだ。

しかし誰も異臭の発生源がMの家であるとは考えなかった。

なぜならMの家から10mほどのところにドブ川が流れていたからだ。その上流に食堂があり、その食堂で捌かれた鳥の血がドブ川に流れ込んでいた。

そのせいで夏になるとドブ川から強烈な臭気が立ち昇っていたのだ。

異臭はドブ川の臭気と混同され、本当の出どころがわからないまま放置されてしまったのだ。

死者の正体

DNA鑑定の結果、その白骨は確かに身分証明書に記されたHという男性の遺骨であることが判明した。

Hは10年前に失踪していた。そしてHは、Mの娘Dのボーイフレンドであった。

しかしそれは10年前のことである。

白骨が発見された時点でDはすでに結婚しており、9歳の子供がいたのだ。

Hは10年前にDと別れた。その後Dは別の男性と結婚し、Hは失踪したのだ。

Hについての情報は10年前の1996年12月18日を最後に完全に途絶えていた。

その日Hは友人から「Dが別の男性と結婚するらしい」という話を聞いたという。

その話を聞いたHは「Dに聞いて確かめる」と言って出て行ったそうだ。

Hが失踪してからHの家族は公安に捜索願を出した。そしてDを訪ねてHの行き先に心当たりはないか訊ねた。

そのときDは「確かにHは訪ねてきたが、言い争いになって出て行った」と答えている。

Hの家族はHが死んだとは思っていなかった。Dの口から出た噂レベルの話ではあったが、Hは広州で暮らしているという知らせを聞いていたからだ。

しかし実際にはHは白骨となっていたのだ。

白骨が発見されたとき、Dは別の家に住んでいた。しかし2年前までは両親と同居していたという。

その実家の屋根裏でHの白骨が発見されたのだから、この事件の真相はDが知っているに違いない。

公安はDの取り調べを開始した。

事件の経過

Dの供述は次の通りであった。

1996年12月18日の夜12近くになってHが訪ねて来た。

そのときDはすでに別の男性と結婚する準備をしていた。

そのことを知ったHは、2階のDの寝室に上がり込んでDを非難した。

二人は中学以来の幼なじみであったから、Hが家に上がり込むことに対して家族は違和感を感じなかったのだろう。

HとDは言い争いになったが、しばらくしてDはHに飲み物を持って来た。

Dはその飲み物の中に大量の睡眠薬を溶かしていた。

Hは睡眠薬の作用で動かなくなった。Dは電話線でHの首を絞めて殺害し、遺体をベッドの下に隠した。

数日後、Dは斧などを使ってHの遺体を解体し、布袋に入れて屋根裏部屋に運んだのだ。

その後10年ものあいだ遺体は誰にも発見されなかった。

H殺害の直後にDは結婚し、翌年には子供を産んでいる。

逮捕されたときは教育局の職員として勤務していたそうだ。

判決

裁判でDは証言内容を変更した。

睡眠薬はHが自殺するために自分で持って来たと主張したのだ。そして自分は首を絞めていないと証言し、殺害を否定した。

つまり自分の罪は死体損壊だけであるということだ。

しかしHの白骨とともに発見された電話線や、白骨の法医学的鑑定により、Hの証言は否認された。

判決は緩期2年執行の宣言を付けた死刑判決であった。

この判決に対してHは控訴した。

2006年11月30日。浙江省高級法院は原審の判決を維持する判断を下した。

付記

Dの母親Mが白骨を発見しなかったら、Dの殺人は発覚しなかったに違いない。

近隣住民が騒ぐほどの異臭騒ぎが起きても、発覚しないときは発覚しない。

そうかと思うと、ほぼ迷宮入りしていた事件が、わずかなきっかけで明るみに出ることもある。

中国では裁かれるかどうかは運次第とも言えよう。