中国のニセガネ作りというアングラビジネスの実態

中国の贋金事情

日本ではニセ札が発見されば全国的なニュースになる。しかし中国ではニセ札は珍しくはない。

中国に行ったことがある日本人の中には次のような経験をしたことがある人は少なくないはずだ。

買い物の際に100元札を渡す。紙幣を受け取った店員はすぐには釣りを渡してくれない。疑い深い目つきで紙幣を検めてからやっと釣りを返すのだ。

こんな経験をしたことがない日本人は「俺を疑っているのか?」という気分になり腹を立てる。しかしこれは中国では当たり前のことなのだ。

中国で生活していれば一度くらいはニセ札をつかまされていると言ってよい。だから紙幣を受け取る側も慎重になる。

客のほうでも事情はわかっているから腹を立てたりはしないのだ。

世界的な視点からは日本のように紙幣を疑いなく使用できる国のほうが少数派らしい。中国人の感覚では日本にニセ札がないことのほうが不思議だというのだ。

このため中国には「日本の紙幣は高度な印刷技術で作られているので、偽造しようとすると紙幣の額面以上のコストがかかる。だから日本にはニセ札がないのだ」という都市伝説すら囁かれている。

確かに紙幣偽造には大きなコストがかかるという側面が無いとは言えない。しかし日本で紙幣偽造が行われないのは恐らく別の理由からだろう。

日本には紙幣偽造はすぐに発覚し、検挙されれば重罪であるという常識がある。だから犯罪を計画するようなタイプの人間ですら紙幣偽造には手を出さないというのが真相ではないか。

要するに日本では紙幣偽造は「逃げ切れない」犯罪だという観念が強いのだ。

ところが日常生活の中でしばしばニセ札に出会うような環境にいると、紙幣偽造へのハードルは極端に下がるようである。

自宅で偽札作り

中国には軽い気持ちで紙幣偽造をする人がいる。例えば広東省恵州市で摘発されたケースなどは、通貨偽造に対する考え方の甘さを如実に表している。

このケースでは、犯人は市販のプリンターで10元札と20元札(中国にはこのような紙幣がある)をプリントし、しかもインターネットで額面の15%から30%の価格で販売していたのだ。こんなことをすれば摘発されるのは時間の問題である。

当然犯人は検挙されたが、この偽札販売で6万元の利益を得ていたそうである。売るほうも売るほうなら、買うほうも買うほうである。

組織的な偽造

言うまでもなく通貨偽造を行うのは自宅のプリンターを用いるような素人だけではない。本格派の組織的な通貨偽造組織も存在するのだ。

大規模な通貨偽造集団は分業体制で大量のニセ札を製造している。

かつて広東省で一次製品を作り、湖南省に運搬して二次加工を施し、四川省に運んで販売するという広域犯罪が摘発されたこともある。

彼らは100元札1枚を6元で販売していた。複数の情報を総合すると、最近までは100元札1枚6元が一般的な相場だったようだ。

通貨を偽造する集団は直接その偽造通貨を使うのではなく、卸値で大量に売りさばくのである。

生産量は2億元を超えていたというから、直接市場に流通させるには金額が大きすぎるのだ。

100元紙幣をたったの6元で販売するのでは割が合わないようにも思われるが、いくらでもプリントできる印刷物であるから売り手側に損はない。

また買い手側としては6元で買った偽造通貨をマージンを上乗せして転売してもよいし、直接使えば16倍以上の値打ちがある。

摘発されない限り巨額の利益を得られるのだ。

建国以来最大の偽札事件

2017年には建国以来最大と言われるニセ札製造事件が摘発された。

中国警察は偽造紙幣の流通経路を逆にたどる捜査を行っていた。この捜査の過程で大規模なニセ札製造工場立ち上げの準備が行われている情報を入手したのだ。

警察は組織を一網打尽にするために3カ月にわたる極秘捜査を行った。その結果警察は偽造工場を特定し構成員の素性を明らかにしたのだ。

使用された紙の重さは3トン以上。偽造された額は2億1千万元。偽造紙幣を縦に積めば66階建てのビルの高さに相当するそうだ。

検挙されたのは14名。印刷工場と偽造紙幣の保管庫も発見された。何よりの収穫は偽造紙幣の販売ルートが解明された点だ。

このことにより類似犯罪の再発をかなり抑制できるという。