農村の怖い話:地縛霊を滅ぼす儀式「釣鬼魚」の餌になった男児

釣鬼魚

水の事故が起きた土地には地縛霊が棲みつく。

この地縛霊を中国では一般に水鬼と呼ぶが、鬼魚と呼ぶ地方もあるそうだ。

鬼魚が出没する水辺では、水の事故が相次いで起こると言われている。

そこで鬼魚を退治するための儀式が行われることがあるそうだ。

しかしそれは儀式と呼ぶにはあまりにも生々しい方法である。

鬼魚を直接捕えて叩きのめし、焼いてしまうのである。

具体的な手順は次の通りだ。

子供の腰に縄を結んで鬼魚が出没する付近の水の中を泳がせる。

鬼魚が子供の脚を攫んだところで、大勢の大人が縄を引いて鬼魚ごと子供の体を引き揚げ、鬼魚を捕えるのだ。

捕えた鬼魚は棍棒で滅多打ちにして動けないようにする。

そうしておいてから呪力があると言われている桃の木の枝を燃やして、鬼魚を焼いてしまうのだ。

こうすると水鬼は肉体を失い、二度と人間を水の中に引き込むことができなくなるという。

ただし鬼魚は簡単には釣れない。

子供の脚が引きちぎられたり、縄を切られて子供が行方不明になることも少なくないそうだ。

大きな危険に晒される子供は、魚釣りの餌と同じように「餌」と呼ばれる。鬼魚を釣るために犠牲にされるというニュアンスを含む呼び方だ。

もちろん誰も自分の家の子供を餌にしようとしない。

だから鬼魚釣においては、村の中で立場が弱い家の子供が半ば強制的に餌にされるという。

この風習は現在でも一部の地域に残っているそうだ。

ある鬼魚釣の顛末

ある村で橋から車ごと落下して、中に乗っていた2人が死亡する事故があった。

そこでは10年以上前に男性が入水自殺していたそうだ。

当然現地では2人は水鬼に引き込まれたという話が広まった。

その結果、村民たちはその橋を避けるようになった。すこし遠回りでも別の橋を利用するようになったのだ。

事故が起きた橋の近くに雑貨店があった。

村民たちが橋を避けるようになってから、その店は営業不振に陥ってしまったそうだ。

その店の経営者は地元の有力者だった。裏では賭場を仕切り、高利貸しもしている人物だったという。

やはりこの男も水鬼の存在を固く信じていた。

自分の商売を挽回するために、その男は鬼魚釣を行うことにしたのだ。

餌になったのは両親が出稼ぎに出ている留守児童だった。

祖父母がその子の面倒を見ていたのだが、祖父は賭博に手を出して借金漬けになっていた。

借金返済の期日を伸ばす代わりに、孫を餌にすることを承知したのである。

鬼魚釣の当日、川を泳ぐことになった少年の腰には丈夫な縄が結びつけられた。

少年は大人たちの目の前で川に飛び込んだ。上流から下流に向かって水面を泳いでいた少年の姿が急に水面下に沈んだ。

大人たちは一斉に縄を引いた。縄はとてつもない力で水中に引き込まれていった。

数分間、一進一退を繰り返していたが、急に縄が切れてしまった。少年はそのまま行方がわからなくなった。

その後しばらくして祖父が村の有力者の家を襲い、雑貨店の経営者を中華包丁で惨殺した。

取り押さえられた祖父は完全に発狂していたそうだ。

村では餌にされた孫の怨霊が祖父に憑りついたのではないかと言われている。