恐るべき数字
2018年6月1日のこと。央広夜新聞というメディアが中国では毎年20万人の児童が誘拐され、発見されるのは0.1%に過ぎないと報じた。
毎年20万人とは恐るべき数字である。さすがの中国でも、これは社会不安を煽る可能性がある情報だった。
この数字に対して別のメディアが直ちに反論した。それは次のような内容であった。
中国の公安部は2016年5月から、失踪児童情報緊急公開プラットフォーム(児童失踪信息緊急発布平台)というシステムを運営している。
中国全土の6000名の公安職員がこのデータベースに情報をアップする体制になっており、中国全土の捜査員がこのデータを利用できる環境が整えられた。
このシステムを利用して2016年5月から2017年5月までの1年間の失踪者数を検索すると、次のような結果になった。
失踪者総数:1317人
発見された人数:1274人
未発見の人数:43人
発見される割合:96.74%
失踪の原因は次のとおりである。
誘拐:40人
家出:750人
事故:82人
原因が特定されていないケースもかなり含まれるようだ。
失踪者総数1317人は年間失踪者20万人という冒頭の数字とかけ離れている。
そして誘拐されたのが40人という数字も中国の常識とかけ離れている。中国の実態を知っていれば、あまりにも少なすぎる印象を受ける。
誘拐されたのが40人ならば中国児童の総数に対する誘拐される人数の割合は、飛行機事故の発生率とほぼ等しいことになるらしい。
つまり非常に珍しいケースということになってしまう。
この記事を書いた記者ですら「我々の直観に反する」と記しているくらい信じがたい結論だ。
恐るべき実態
実は誘拐の発生件数と人身売買の発生件数は一致しない。
なぜなら現在の中国では誘拐した児童を売り飛ばすタイプの犯罪は減っているからだ。
その一方で中国語で「親子親売」と呼ばれる行為が横行している。
つまり実の親が自分の子を売るのである。
通常、誘拐事件を公安に通報するのは家族であるが、親が子を売り飛ばす場合には、公安に通報するわけがないから事件として認知されない。
だから誘拐の発生件数よりも人身売買の件数はかなり多いと推測されている。
人身売買の実例
2018年5月28日、福建省泉州市で11人の男児を売買した「特大」人身売買事件に関与した9名に有期徒刑15年などの判決が下された。
この事件の中のエピソードを知ると、嬰児がモノとして扱われている様子がわかり、戦慄せざるをえない。
ひとつだけ実例を紹介しよう。
犯罪集団の中の最年長者はXという63歳の女性であった。職業は占い師である。
共産圏の中国にこのような職業があることすら、日本ではあまり知られていないようだが、中国には占いや風水を信じる人が今でもたくさんいて、彼らの需要に応える人たちも多数存在するのだ。
2015年2月、德化(泉州市内の街)に住む夫婦が、Xに子宝が授かるかどうかを占うよう求めた。
この夫婦に対してXは、子供が欲しいなら「ある人物」を紹介してやると言った。「ある人物」とは人販子(人身売買の仲介人)である。
つまり暗に人身売買の提案をしたのだ。
この夫婦は不妊で悩んでいたため、その人販子を紹介してもらうことになった。
翌3月、Xは人販子Sに連絡して男児を「調達」させたが、9万元という価格を提示され「高すぎる」という理由で別の男児を探している。
ふたり目の男児は4万5千元であった。
Xはこの男児を買い取り、転売しようとした。しかしこの男児は歩くことができなかった。何らかの先天的障碍があったのかもしれない。
このせいで買い取りを拒否され、事件が発覚した時点でXが育てていたそうだ。
実の子であれば、障害があろうとなかろうと、愛情をもって育てることができるはずだが、買い取るとなるとそうは行かないようだ。
彼らは2014年から2016年まで生みの親から男児を買い取り、子供がいない夫婦に売り渡す行為を繰り返していた。
事件発覚後、11人の男児は福利院で保護されている。実の親が行方をくらましてしまったからだ。
中国の人身売買の多くは、実の親が子を売り飛ばすところから始まる。
親が子を愛するという常識は、実は幻想なのかもしれない。
人身売買の闇は、あまりにも深いのである。