鬼を殺した男

温州の龍湾

浙江省の沿海部に温州という街がある。

南宋時代から貿易港として栄え、現在でも商人の街として知られている。その一方で農業も盛んであり、温州みかんや楊梅というフルーツの産地でもある。

この温州の四大主城区のひとつに龍湾という地区がある。

龍湾は海に面し、中心部には高層ビルが立ち並ぶ近代的な地区であるが、一歩郊外に踏み出せば緑が広がるのどかな街でもある。

血まみれの死体

2014年3月7日の午後1時ごろ龍湾の警察に地元住民からの通報が入った。永中街道の神廟内に死体が倒れているというのである。

警察が現場に駆けつけると神廟内には血まみれの死体が倒れていた。死体の頭部は鋭利な刃物で乱打されていた。明らかな殺人事件。しかも非常に残酷な殺し方である。

奇妙なことに破壊されていたのは被害者の頭部だけではなかった。廟に祭られていた木造の神像三体も破壊されていたのである。

ちょうど被害者の死体と同じように頭部が打ち砕かれ、顔面は原型をとどめていなかった。

警察の捜査

所持品などを調べた結果、被害者の身元はまもなく判明した。

被害者はLといい、地元の人間ではなかった。出身は貴州省麻江県である。死体発見現場周辺の聞き込みにより、かなり以前から龍湾一帯を流浪していたことが判明した。

遠方から来た放浪者となると怨恨による殺人の可能性は低い。また大した金銭など所持しているはずはないから物取りの犯行でもなさそうだ。

捜査は難航するかと思われたが、予想外に早く容疑者が浮かび上がった。警察は防犯カメラが捕らえた映像をもとに容疑者を洗い出したのだ。

余談ではあるが現在の中国には至る所に防犯カメラが設置されている。このことにより中国警察の捜査能力は飛躍的に向上しているのだ。この手法はイギリスを真似たとも日本を真似たとも言われている。

場合によっては解像度の高いカメラが使われているので、映像から人物を特定することも可能なのだ。

容疑者として浮上したのは遺体発見現場に近い棋村に住むCという男であった。警察は直ちにCの自宅を訪ねたが、このときにはすでにCは姿を消していた。

しかし警察はCの故郷が四川省であることを調査済みであった。龍湾から逃走したCは故郷に戻るに違いない。そう判断した警察は四川省に捜査員を派遣した。

警察の読みどおりCは父親の家に潜伏していた。

警察に逮捕されたCは神廟内での殺人をあっさりと認めたのである。

鬼に憑り付かれた男

四川省出身のCはなぜ貴州省出身のLを殺害したのか?

そこには誰も予想できない動機が隠されていた。

Cは事件を起こす前年の11月ごろから悪夢にうなされるようになっていた。夢に鬼が出てきて彼の名を呼ぶのだという。

Cは毎日のように悪夢にうなされ睡眠不足に陥ってしまった。たまりかねたCは父親にアドバイスを求めた。

父親はこのような夢は悪霊の仕業であると判断した。そこでCに悪霊を祓うまじないを教えた。しかしこのまじないは全く効果がなかったそうだ。

あいかわらず悪夢に苦しめられていたCが自分の窮状を知人に話すと、知人は鬼が取り憑いているせいで悪夢を見るのだと説明した。

中国では鬼が憑り付く(鬼付身)という話は珍しくない。よく耳にする怪奇現象のひとつなのだ。Cは完全にこれを信じてしまった。

事件当日の行動

事件前日の早朝。Cが目を覚ますと突然くしゃみが出た。

Cはこれを吉祥と考えた。四川省の一部にはくしゃみを幸運の予兆とする考え方があるのだろう。

Cはこのわずかな予兆に賭けることにした。以前から自分に取り憑いている鬼を祓うためにまじないを行うつもりだったのだ。その日が来たと感じたのだ。

そのまじないは斧で木を切るというまじないである。Cは以前にもこのまじないを行ったことがあるというから、四川省の一部で行われる呪術の一種であろう。

翌日、斧を入手したCは木を切るために自転車に乗って神廟のある山に向かった。

神廟に近づくと帽子を被った男が小さな椅子に座っているのが見えてきた。これが殺害されたLである。街を流浪していたLは偶然そこにいたに過ぎない。

神廟に差し掛かったときCはLを睨みつけた。するとLはCに背を向けた。このときCは自分に取り憑いていた鬼が、いままさにLに取り憑いたと直感したのだ。

惨殺

Cの目の前の男はもはやLではなかった。Cから睡眠を奪い苦しめてきた鬼なのだ。

Cは斧を振りかぶりLの頭に振り下ろした。相手は鬼である。生半可なことでは死なない。中途半端に攻撃すれば自分が逆に殺される。

鬼に対する恨みと恐怖心。Cは何度も斧を打ち下ろしLの頭部を完全に破壊した。気付いたとき神廟の中には血まみれのLが倒れていたという。

CはLに何の恨みも何の利害関係もなかった。Cはただ自分を苦しめる鬼を祓おうとしただけなのである。

夢中で鬼を祓った結果、自分の目の前に惨殺死体が横たわっていた。怖くなったCは逃走し、四川省の故郷に身を隠したのである。

ではなぜCは3体の神像を破壊したのか?

Cの証言によれば神像に殺害の現場を見られたからだそうだ。

Posted by 編集長 妙佛大爺

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