死体窃盗が多発するいくつかの理由

奇妙な犯罪

中国では死体窃盗死体販売という日本では聞いたことがない犯罪が多発している。

先ずは比較的情報が整理されている具体例を紹介しよう。

四川省達州の死体窃盗

四川省達州市に竹渓村という小さな村がある。地元ではタケノコの産地として知られるのどかな村だ。

この村で2000年ごろから死体が盗まれる事件が多発していた。10年のあいだに30体の死体が盗まれていたのだ。

盗まれた死体に共通性は見いだせなかった。病死自然死を問わず、幼い子供の死体から老人の死体までが盗まれていた。女性の死体が多いが男性の死体も盗まれていたのだ。

遺体を埋葬すれば盗まれる。そこで遺体を埋葬した家族の中には人を雇って墓を見張らせる人も現れた。しかし出費が重なるうえに埋葬直後に盗まれるとは限らない。

結局、墓に見張りが立つようになってからも死体は盗まれ続けているのだ。

この事件にはさらに奇怪な続報がある。盗まれた死体はバラバラにされ、村の各所にばらまかれているというのだ。それだけではない。

死体が直立するように木に縛られていたり、切り取られた頭骨が木の枝にぶら下げられているケースもあったというのだ。

この事件は今でも未解決のままである。犯人の動機、目的が不明なだけに不気味な事件だ。

北流死体窃盗事件

2012年の9月。広西の北流上里で葬儀が行われた。遺体が埋葬されてから10日後の深夜から大雨が降り始めた。悪天候の山間部では外出する人は少ない。

ところがその晩の深夜2時過ぎにひとりの村人が街から村に向かっていたのだ。村に続く道に差し掛かった時、村人は人を背負った何者かの後ろ姿を発見した。

激しい雨の音と漆黒の闇。その中に浮かび上がるライトの光。

村人は後を追った。怪しい影は省の境界を越えて広東省に入った。広西の北流は広東の化州市と接している。

後を追っていた村人は化州市の宝墟鎮という村で人影を見失ってしまった。村に戻って確認すると10日前に埋葬された遺体は案の定盗まれていたのだ。

同年の11月には病死した女性が埋葬された。1年後に墓地でがけ崩れが起きた。露出した棺桶の中は空になっていた。誰にも気づかれずに何者かが死体を持ち去っていたのだ。

2014年6月には再び死体窃盗事件が発生した。この地区では数年にわたって死体窃盗事件が相次いでいた。この間、警察は密かに捜査を続けていた。そして全貌解明の手掛かりをつかんでいたのだ。

通報を受けた翌月に警察は被疑者を逮捕した。

被疑者の供述によると、死体窃盗の目的は販売である。買主は広東省の公立の火葬場に勤める公務員であった。

中国政府は火葬を推奨しているため、公立の火葬場には月ごとのノルマがある。管轄する地区での死亡者リストが届き、その数と火葬の数を合わせなければならないのだ。

しかし広東省の田舎ではいまだに土葬が主流である。火葬せよと連絡したときには埋葬が終わっているというケースも少なくない。

火葬の件数が少ないと成績に影響が出てしまう。そこで死体を買い取り火葬することで、ノルマを達成していたのである。

死体目的の大量殺人

2009年には広東省で6名の犯罪者がたった1年のうちに400名を殺害した事件が摘発されている。

誘拐されそうになった人物が運よく逃げ出して通報したため、誘拐の実行犯3名が逮捕され、その後共犯が逮捕されたのである。

犯人たちが大量殺人を行った目的は死体の入手である。人を殺して死体を手に入れ、この死体を販売して利益を得ていたのだ。

犯人たちは死体1体を1万元で販売していたという。買い手は国内の富裕層であった。

北流のケースでは火葬場の公務員が死体を買っていたが、死者の家族が身代わりの死体を火葬場に持ってゆくこともあるのだ。

なぜかと言うと火葬証明がないと遺族年金の受け取りなどで不利益を受ける仕組みがあるからだ。

また中国でそれなりの地位がある人は共産党員であることが多く、家族が死亡した場合には共産党の方針に従って火葬にしたという証明が欲しいという事情もある。

身代わりの死体に外傷があると不吉と考えられているため、摘発された殺人者たちは被害者を毒殺していたそうだ。

冥婚という奇習

ここまで紹介したのは中国の国策である火葬推進が死体売買という犯罪を生み出した皮肉なケースである。

しかし死体売買にはもっと不気味な動機も隠されている。

中国には古来より冥婚という習慣がある。婚姻前に人が死亡すると、その伴侶として異性の死体を一緒に埋葬する習慣である。

冥界は陰間とも言われるので、冥婚には陰婚という呼び方もある。また配骨鬼婚という呼び方もある。

当然のことながら現代の中国では冥婚は迷信として禁止されている。

しかし冥婚の習慣は根強い。

冥婚のための死体需要は今でも存在し、こうした需要を満たすために殺人に手を染める犯罪者が存在するのだ。

2011年に延安で起きた死体販売目的の殺人事件では、冥婚のために死体を必要としていた家族に死体が販売されている。

価格は1体2万2千元(日本円でおよそ40万円)であった。

2016年には甘粛省の男3名が2名の女性を誘拐し、毒薬を注射して殺害した事件が摘発されている。

冥婚のために女性の死体を必要としていた買主に死体を販売するのが殺害の動機であった。

犯人が陝西省榆林の買主に死体を運ぶ途中で、たまたま警察の検問に遭遇して事件が発覚したのである。検問を通過していれば迷宮入りしていた可能性が高いのだ。

冥婚の多発地帯は山西省陝西省である。他の省で盗まれたり殺されたりした死体の大部分はこのふたつの省に集まっている。

山西省や陝西省の農村と言えば以前は貧しい土地であった。死体を購入することなどできなかったので、冥婚の必要があるときは死体の代わりに張りぼての死体を埋葬していたそうだ。

しかし経済発展の結果、農村部でも数万元の金銭を用意できるようになった。このせいで本物の死体が売買される事態になっているのだ。

中国の一部地域では未婚男性の死体をそのまま埋葬することは不吉であり、しかも世間的に対面が悪いと考えられている。

この観念は何かの宗教のように一部の人たちに強く共有されているので、簡単にはなくならない。むしろ死体売買は増加するのではないかと危惧されているのだ。