死緩という中国独特の死刑

中国の死刑判決

中国の死刑判決には死刑立即執行判決緩期2年執行判決の2種類がある。

緩期2年執行判決は一般に死緩[sǐ huǎn]と呼ばれている。

そう言われても、それが何か日本人にわかるはずはない。

これは中国人自身が中国独特の制度だという特殊な制度だからである。もちろん日本には同じ制度は存在しない。

死緩は具体的には死刑判決と同時に2年間死刑を執行しないと宣言する方式で言い渡される。

このように説明すると執行猶予という言葉を想起する人もいるだろう。しかし死緩は日本の執行猶予とは全く異なる制度である。

中国にも執行猶予に相当する制度があるが、それは緩刑と呼ばれている別の制度なのだ。

日本でも中国でも執行猶予は比較的軽い判決に対して認められるものである。日本でも中国でも死刑判決に対する執行猶予はありえないのだ。

具体的内容

中国では死刑判決が下ると最高人民法院の審査の後に死刑執行命令書が交付される。

その交付を原裁判所(人民法院)が受け取ってから7日以内に死刑が執行される。

しかし死緩の場合は2年間死刑が執行されない。

執行猶予の場合は猶予期間を過ぎれば刑の執行は「なし」になるが、死緩の場合は2年経っても開放されるわけではない。そこが執行猶予とは全く異なる点である。

2年経過した後の処遇には次の3種類の可能性がある。

1.死刑執行
2.無期徒刑に減刑
3.15年以上20年以下の有期徒刑に減刑

しかし実際に死刑が執行される可能性は非常に少ない。なぜなら死刑判決後の2年間に故意の犯罪を犯した場合だけ死刑が執行されることになっているからだ。

つまり死緩は事実上、死刑を免れる判決なのである。

要件

ではどのような場合に死緩が宣告されるのであろうか。中国の刑法は「直ちに執行する必要がないとき」に死緩を宣告することができると定めている。

しかしどのような場合が「直ちに執行する必要がないとき」に該当するのか明確ではない。

この件については、被告人の生死を事実上分ける判断であるから、中国の法律家はもちろん、犯罪報道に関係する人たちの関心も高い。

それだけにウェブサイトにアップロードされている専門家の解説は少なくない。これらを読むと、要するに情状に汲むべき点があるかないかが判断を左右するのだ。

刑法の定めによって「このケースはどう判断しても死刑」という場合でも、事情によっては死刑にするまでもないケースは存在する。そのような場合に死緩を宣告して、事実上死刑を回避することができるのだ。

適用

中国では政府幹部の犯罪に死緩が宣告されるケースが目立つ。

2011年に中国高速鉄道が事故を起こし、その車両が現場に埋められた話を覚えているだろうか?

あの事故の責任者には死刑判決が下されている。それと同時に死緩が宣告されていたのだ。つまり死刑は執行されないのである。

鉄道当局の幹部が事故の責任をとって死刑になるというのは、先進国ではありえない話であろうから、結論そのものはこれでよいのだろう。

最近話題になっているのは、中国最大の汚職事件と呼ばれる事件の中心人物に関する、減刑のニュースである。

この人物は汚職で摘発され、2005年に死刑判決をうけた黒龍江省のもと幹部である。

死刑判決と同時に死緩が宣告されており、当然のことながら2年後に無期徒刑に減刑されていた。

その後2010年には有期徒刑18年に減刑され、その後さらに有期徒刑17年に減刑されたので注目されたのだ。

減刑の理由は、「服役期間の態度が良好だったから」である。

中国での政府幹部の失脚は政治闘争の色彩もあるため、死刑が執行されない扱いは政治の智恵なのかもしれない。

ただし一般の中国人は高官が死刑を免れるのは不公平であると考えるだろう。このことが政府に対する不満の一因になっているのは間違いない。

付記

この記事は2017年12月現在の情報である。法律は改正、運営の変更があることにご注意いただきたい。