地下の黄金は地獄への招待状

墓の中の財宝

断言しよう。中国の地下には多くの財宝が眠っている。こう断言するには当然それなりの理由がある。

ひとつの理由は厚葬の伝統である。遺体を埋葬するときに豪華な埋葬品を副葬することを厚葬という。厚葬は特に昔の中国で顕著であった。

墓が古ければ古いほどその墓の価値は高まる。豪華な副葬品が見つかる可能性が高いからだ。しかも古い時代の文物には骨董的な価値があるので、仮に黄金や玉石の数が少なかったとしても青銅器ひとつが天文学的な額で取引される。

このせいで多くの墓は盗掘にあってしまったが、それでもまだ手付かずの墓が残されているのだ。

そのような墓を掘り当てればまさしく一攫千金。人生が一転するほどの富を手に入れることが可能だ。

言うまでもなく中国では古い墓の文物は国家の財産であるから勝手に持ち出すことは犯罪である。しかし莫大な富の前では刑罰による威嚇もあまり効果がないようである。墓泥棒は現代の中国でも珍しくない犯罪だ。

埋蔵金

地下の財宝は墓室の中にだけあるとは限らない。日本でも時々埋蔵金の噂が話題になるが、中国にももちろん埋蔵金はあるのだ。

埋蔵金の規模には大きな幅がある。

黄金の塊がゴロゴロ出てくるレベルの話もあるが、昔の民家や商家の跡地から壺が掘り出され、中から当時の貨幣が発見されるという話が多い。

この手の埋蔵金は工事の最中や土砂崩れなどで偶然発見されることが多い。成都のような歴史の古い土地に限らず、上海などでも「お宝発見」ニュースはしばしば報道されている。

民間人が埋めた古銭の多くは大して価値がないことが多いが、数千枚の古銭の中には非常にレアなものが混じっていることがある。

珍しい古銭にはとてつもない価格が付くから、銅銭だとしてもバカにはならないのだ。場合によってはマンションのひとつも買える金額になることもある。

たまたま地面を掘っただけで一攫千金。歴史の長い中国ではそのような「チャイニーズドリーム」がありうるのだ。

四方村の黄金

四川省の宜賓県に四方村という村がある。キュウリやゴーヤなどを栽培する農家が多いごくふつうの農村である。

ある日、四方村の住民であるLの自宅に地質調査隊と称する男たちがやって来た。Lの土地に地震計を設置したいので協力してくれないかと言うのだ。

Lが承諾すると男たちはすぐにLの土地を掘り始めた。

しばらくすると男たちが小さな声でLを呼んだ。ただならぬ様子である。穴に近づいてみると男たちは自分たちが掘り当てた黄金の亀を指さしていた。

男たちはLに「このことは秘密にしておこう」と持ちかけた。暗に利益の折半を持ち掛けていることは明らかだった。

Lの土地で発見されたとは言え、地中から発見された古物は国家の財産である。Lとしても全て自分のものだとは言えない立場なのだ。Lは同意した。

それを確認した男はどこかに電話をかけた。別の男の説明によると彼の親戚が台湾で古物商をしているので、その親戚に電話をかけて価値を尋ねるというのだ。

電話を終えた男は周囲を警戒するように視線を走らせてから小声で囁いた。その黄金の亀は極めて貴重な宝物であり、少なくとも180万元(日本円でおよそ3400万円)の価値があると言うのだ。

台湾の古物商は166万元でその黄金の亀を買い取ると提案したという。いくら高価な品でも買い手がいなければ現金化できない。古物商の提案に乗れば買い手を探す手間が省ける。しかも166万元という価格は悪い話ではない。

誰にも異存がなかったので、その場で台湾の古物商に売り渡すことになった。

台湾の古物商は価格の他にもうひとつ条件を付けていた。国際送金の手続き費用として4万元を負担してほしいというのである。

男たちは代金の山分けを前提に、国際送金の手続き費用の半額である2万元を負担するようにLに持ちかけた。Lはこれに同意し、すぐに用意できた15600元を男たちに渡したのである。

台湾からの金が届いたら再度連絡するとの言葉を残して男たちは去って行った。黄金の亀はLの手元に残されていた。

真相

Lは送金の連絡を今か今かと待ち続けていたが、いつまで経っても連絡は来なかった。たまりかねたLは自分から男たちに電話をかけた。しかし全く応答がないのだ。

Lは黄金の亀を持って街に向かった。貴金属を扱う店に鑑定を頼むと、その亀は二束三文の品だと判明した。

このときになってLはようやく詐欺師に騙されたことに気がついたのである。

実は「地下には財宝があるかもしれない」という観念を利用したこの手の詐欺は昔から金亀詐欺と呼ばれる典型的な騙しの手法なのだ。

 

 

Lは警察に通報したが、この時点ですでに同じような被害が10件以上も通報されていたという。詐欺集団は同じ手口で詐欺を繰り返し、別の土地に移動するのである。

このケースでは警察の広域捜索の結果、犯人たちは検挙された。検挙されるまでに25件の詐欺を行い合計16万元を詐取していたという。おもな被害者は田舎の老人であった。

金亀詐欺は騙される側の「欲」を利用する点で巧妙である。同じような手口の詐欺は後を絶たないようである。このような詐欺が存在することは広く知られているのに、それでも被害に遭う人がいるのだから人間の欲とは恐ろしいものだ。