中国の拳銃密輸の実態

頻発する密輸事件

中国では銃器の密輸事件が後を絶たない。

密輸の手法としては、犯人が直接国内に持ち込む方法と、国際宅配便などを利用して送付させる方法がある。

直接持ち込みは国外に仲間がいなくても密輸できるが、国境を越える際に発覚すればその場で身柄を拘束されるリスクがある。さらに中国では国内を移動する際にも携行品の検査を受けることが多いので、その際に発覚することもありうる。

一方、送付による密輸の場合には海外に仲間が必要である。また代金を支払うための国外への送金手段がなければならない。

どちらにしても容易なことではないはずだ。しかしこのハードルをやすやすと越えて大量の武器弾薬が密輸されているのである。

国際宅配便

宅配便を使った密輸事件の一例としては2011年に上海で発覚した事件が比較的よく知られている。

宅配便業者の倉庫で通関の検査をしていた係員が、アメリカから送付されてきた「拡声器」の中に軍用拳銃が隠されていることを発見した。

送付先は浙江省台州市となっていた。しかし調査してみると詳細な住所は架空のものであった。

実在する街を宛先にして細かい住所を架空の住所にすると、現地の支店が荷物を保管し、送り状に書いてある受取人の電話番号に連絡することになる。そして電話を受けた受取人が支店まで受け取りに行くのだ。これは中国の郵便局でも採用されている方式だ。

この仕組みを利用すれば受取人は住所を知られることなく荷物を受け取ることができる。

当局はその場で拳銃を押収せず、台州市に荷物を移動させ監視下に置いた。またアメリカの当局とも連絡をとり、送付した人物について照会を行った。

案の定、送付者の住所氏名は全て架空であった。ただしアメリカの当局もこの密輸事件に関する情報を把握していた。銃器の供給源は中国人のあいだで「老五」と呼ばれている人物であるというのだ。

身柄拘束

台州市の支店に銃器の受取人が現れた。

中国当局はその人物を拘束し、その人物の自宅を捜索したところ、大量の銃器が発見された。

しかし被疑者は黙秘し輸出側の情報は得られなかった。この男の銀行口座からの金銭の流れを追うと、福建省の口座に日本円に換算して2千万円ほどの送金が行なわれていた。

また被疑者の口座には頻繁に入金があり、さらに被疑者が宅配便を利用して中国各地に「犬」や「ドッグフード」を送付していることが判明した。

調査の結果「犬」は拳銃であり「ドッグフード」は銃弾であることが明らかになった。

一方、福建省の口座の持ち主を調べてみると、それは意外にも29歳の女性であった。彼女の自宅を捜索したが、銃器に関するものは一切発見されなかった。

さらに調査を進めると、彼女は台州から送金されてきた人民元を米ドルに変え、アメリカに送金していることが判明した。送金先はアメリカ在住の弟であった。

この情報はアメリカ当局に伝えられた。

まもなく銃器の供給源である「老五」の正体が暴かれた。「老五」は福建省の女性の弟ではなかった。「老五」はノースカロライナの現役の軍人だったのだ。

彼は自分自身の地位を利用して銃器を調達し、中国人と組んで中国へ銃器を密輸していたのだ。言うまでもなく「老五」はアメリカの当局に逮捕された。

密輸事件に関しては、米中の警察当局の連携が機能しているようである。

持込式の密輸

次に「持込式」の密輸の一例として2013年に湖北省で摘発された事件を紹介しよう。

2013年のある日、湖北省随州で地下カジノを経営するCはカンボジアに旅行に行った。

Cは現地人との会話の中でカンボジアでは簡単に銃が手に入ることを知った。この話を聞いたCは銃でカジノの警備をしたいと考えるようになった。

CにはLという友人がいた。Lは湖北省孝昌県の不動産ディベロッパーである。LはCよりも多くの財産をもっていた。

Cは以前、Lに銃を1丁プレゼントしたことがあった。Lは護身用に拳銃を欲しいと言っていたが実際には銃マニアであったようだ。

帰国したCはLにカンボジアからの銃の密輸を持ちかけた。案の定、Lはすぐに同意したという。

Cは子分を通じてカンボジアで高利貸しをしている同郷人のSと連絡を取り、現地で銃を購入させた。

Cはさらに同じ街に住むZを運搬係として仲間に引き入れた。Zには軍隊での勤務経験があったので、そこが買われたのかもしれない。

Zには暴力事件を起こして服役した前科があったが、傷害事件の前科があるCにしてみれば、大した問題ではなかったのだろう。

裏切り

2013年12月、CはZとともにベトナムへ密出国した。そこにカンボジアで銃を調達したSが12丁の拳銃と実弾1740発をもって現れた。

銃を受け取り再び中国に戻ろうとしたとき、Zは「人数が多いと目立つ」と言いだした。そこでCは弾薬を持って先に入国し、Zは拳銃を持って国境を越えることになった。

ところがZは銃を持ったまま行方をくらましてしまったのだ。

しばらくして随州の警察に一般人からの通報が入った。

地下カジノのオーナーであるCがZを探しており「貴重品」を帰さなければ妹夫婦に危害を加えると触れ回っているというのだ。

これがきっかけとなって警察の捜査が始まった。関係者全員が逮捕され、拳銃も押収された。

驚くべきことに押収された拳銃はベレッタ、デザート・イーグルなど、複数の国で製造された正規の品物であった。

押収品を分析した結果、カンボジアでは少なくともアメリカ製、イスラエル製、オーストリア製、イタリア製の拳銃を調達することができることが判明した。

これだけ多種多様な銃を購入したところからみると、やはりこの計画に賛同した不動産ディベロッパーLは、かなりの銃マニアだったのだろう。