債務不履行リスク
中国には急場しのぎのための理財商品や、利益を生み出さないゾンビ企業などに絡んだ膨大な不良債権が存在する。
こうした不良債権の規模は日本円で数十兆円あるいは百兆円以上だという人もいるくらいの恐ろしい額に膨らんでいる。
だから中国経済はいつかは破綻する。そう考えるのが常識的な思考であるが、実はそうとは限らないのである。
中国は赤字垂れ流しの企業を積極的に破綻処理しない。
破綻処理すれば不良債権は損失として確定してしまう。また大規模倒産に伴う失業者の増加は社会不安、政府への不満に直結する。
こうした事態を避けるために問題を先送りしているのだ。
しかし単に問題を先送りしているだけではない。大規模倒産を防ぎながらリスクの付け替えを模索しているのである。
不良債権市場
現在の中国は世界最大の不良債権市場になっている。
中国国内だけではなく、海外からも中国の不良債権を買いに来ているのだ。
彼らは不良債権を買いたたき大幅にディスカウントした価格で買い取る。
不良債権を買い取る目的は転売である。買いたたいて手に入れた不良債権を証券化して売り捌くのだ。
買い取り価格と売却する価格の差額が利益になる。これが非常においしいビジネスなのだ。
中国の不良債権処理会社は超有望な企業とみなされている。
不良債権売却のためのツール
不良債権を転売すると言っても、そんな危険な債権の買い手などいるのだろうか?
よほどの情報弱者でなければ、債務不履行リスクの高い債券などに手を出すはずがない。
そこで中国は債務不履行リスクを緩和する金融技術の研究を続けてきた。
このような金融技術を信用风险缓释工具(そのまま訳せば信用リスク緩和ツール)という。
これは英語のCRM(Credit Risk Mitigation)に相当する中国語である。
これは要するにデフォルト・リスクを債権の買い主以外に付け替えたり分散したりする金融技術の総称である。
中国が打ち出しているCRMには次のような方式がある。
★CRM契約
信用风险缓释合约
CRMA
これはデフォルトに対する保険契約だと思えばよい。
★CRM証券
信用风险缓释凭证
CRMW
これはデフォルトに対する保証債務を証券化したものだと思えばよい。
★クレジット・デフォルト・スワップ
信用违约互换
CDS
これはデフォルトを条件として支払い義務が生じる金融商品だと思えばよい。
★クレジット・リンク・ノート
信用联结票据
CLN
これはリスクを負担する会社のリスクをさらに分散する仕組みだと思えばよい。
CDSとCLNは予備知識がないとほぼ理解不能な仕組みだが、それだけにネット上には多くの解説があるので、ここでは触れない。
重要なのは、これらの仕組みは不良債権のリスクを分散する機能を有し、その結果、本来なら買い手がつかないような不良債権に流動性を与えることができるという点だ。
中国の不良債権問題は中国だけの問題ではない
リスク分散の金融技術は高度に発達している。これらは中国が発明したものではなく、もともとはイギリスやアメリカの金融業界が作り出したものだ。すでに長い歴史がある。
こうした技術を用いれば、将来性のない企業に貸し込んだ銀行は、借り手の倒産リスクを回避できる。
しかし、これらの技術を駆使しても、そもそもの不良債権が優良化するわけではない。
単なる巧妙なババ抜きに過ぎないのだ。最後にリスクをつかんだ誰かが損を被るのである。
つまり現在の中国で推進されているのは、中国国内のババを海外の誰か(あるいは国内の情報弱者)につかませるための仕組みづくりなのである。
日本で莫大な資金を運用している組合の理事や、日本人投資家がこのようなババを引かないように切に願いたい。