ガチョウの禁菜
今回は中国十大禁菜のひとつ脆鵞腸を紹介しよう。
脆鵞腸[cuì é cháng]は、中国では比較的ポピュラーな料理である。
文字通りガチョウの腸を調理して作る一品であるが、この料理の作り方はひとつだけではない。
全ての脆鵞腸が禁菜(残酷料理)というわけではないのだ。
禁菜としての脆鵞腸
脆鵞腸が残酷料理だと言われるのは、ガチョウの腸を取り出す方法が残酷極まりないからだ。
すでに読者諸氏は嫌な予感がしていると思われるが、その予感通りのことが行われるのである。
生きているガチョウの自由を奪い、その肛門を中心にしてナイフで円を描くように切れ目を入れる。
そしてガチョウの腸を引き抜くのだ。生きながらにして腸を引き抜かれる残酷。ガチョウの苦痛は極限に達している。
しかし食材としてこれほど新鮮なものがあるだろうか?
引き抜いた腸を丁寧に洗い、それをすぐに熱湯で茹でてから冷水で冷やす。
こうして用意した腸を通常は炒め物として用いるのである。
また火鍋の具材としても珍重されている。
脆鵞腸は何よりもその歯ごたえ、食感がすばらしい。
そして新鮮なものほど、この食感が優れているのだ。
もちろん現在の中国では、いったん〆たガチョウの腸を用いるのが一般的である。
しかし生きたガチョウから取り出した腸は、死んだガチョウの腸とは比べ物にならないそうだ。
そもそも野生の動物は生きたまま獲物を喰らう。
生命の息吹を宿した食材を美味と感じる感性は、人間も動物の一種であることの証なのかもしれない。
単に奇を衒った残酷料理には違和感を感じるが、残酷であり、かつ美味である料理には妖しい魅力があることを認めざるを得ない。
腸のうまさ、あの食感、それを知っている諸兄の中には、脆鵞腸への嫌悪感どころか、むしろ食指の震えを抑えきれない方もいるのではないか?
少なくとも私は、禁菜としての脆鵞腸に大いなる魅力を感じている。
一時の快楽のために、命あるものに耐え難い苦痛を与える。
この背徳、この悪行。
それら一切を引き受けた所に立ち現れる陶酔と快楽。
食の快楽には底知れぬ恐ろしさが伴うのだ。美食という煩悩、美味への惑溺。
そうした全てが恐ろしく感じられる瞬間が無いわけではない。
Posted by 編集長
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