中国のネット空間
中国はネット情報を選別するために金盾(GFW:グレートファイヤーウォール)を稼働させている。
中国のネット空間はGFWによって隔離された特異空間なのだ。諸外国では当たり前のグーグルの各種サービスやフェイスブック、ツイッターなどのSNSは中国では利用できない。
では中国のネット空間は不便で「つまらない」世界なのだろうか?
ネット空間のガラパゴス島
GFWの内部では中国国産のネットサービスが独自の進化を遂げている。
中国では中国国内のIT企業が検索サービスやSNSを提供しているのだ。
グーグルに比べればしょぼいんだろう?
経済原理を知らない人はそう考えるかもしれない。
しかし実際は中国のIT企業はグーグルと同等のサービスを提供している。画像検索もグーグルアースに相当するサービスも存在する。
またツイッターやフェイスブックと比較して遜色のない国産SNSも存在するのだ。
中国のネットサービスは、大きなフレームワークは国外のネットサービスを模倣しているが、細部は中国人のニーズに合わせて洗練された使い勝手の良いツールになっている。
一般的な中国人にとってネット空間は十分に「楽しい」のである。
国内産業の守り神
大きな設備投資を必要とする製造業などと比較すると、ネットの技術は模倣し洗練することが容易である。
ネットビジネスの難しさは技術的な面にあるのではなく、同種サービスを提供する競争相手に勝たなければ生き残れないという点にある。
日本の企業がグーグルと同じような検索サービスを提供しようと思えば、技術的には可能であろう。しかしそのようなサービスのために投資をする企業は現れないはずだ。
なぜならグーグルに勝てるはずがないからだ。すでに圧倒的なシェアを持つIT企業が存在する分野では、新参者が生き残れる可能性は非常に低い。
ネットビジネスで世界的な企業になるためには、全く新しいビジネスモデルを考案する以外に手はない。
しかし強制的に競争を排除すれば話は別である。
そもそもGFWは政府にとって都合の悪い情報や、ポルノなどの風紀を乱す情報を排除する目的で構築されたものだ。
しかし最近の運営を見ていると、情報の精査を行って個別にアクセスを制限するというよりも、特定企業のサービスを丸ごと利用不可能にする制限が相次いでいる。
恐らく中国当局はGFWの経済的な機能を自覚したのだろう。
つまりGFWは単に情報統制に役立つだけではなく、国内のIT企業を国際競争から守る盾にもなりうるのだ。
思いがけない独立性
地球上のネット空間は、アマゾンやグーグルなどのアメリカ企業の独壇場である。
例えば日本のウェブサイトは一見すると純国産のように見えても、バックグラウンドではグーグルのサービスを利用して運営されていることが多い。
これは日本だけの現象ではない。世界中の多くのネットビジネスがグーグルに依存しているのが現状なのだ。
仮にグーグルが提供している無料のサービスを一切停止したとすると、影響を受けずにウェブサイトを運営できるのは中国の企業だけだろう。
中国のIT企業は最初からグーグルに接続できないことを前提にネットサービスを構築しているからだ。
中国のIT企業がアメリカ企業に依存せずにウェブサイトを運営できるのも、当初は予期していなかったGFWの効用のひとつなのだ。
従来のGFWは中国人の「知る権利」の問題であった。しかし徐々にネットビジネスの産業障壁であることが意識されつつある。
中国という巨大マーケットにアプローチしようとするアメリカの大企業は、政治力をも駆使してGFWに自社専用の「穴」を開けようと画策するだろう。
ネットを使った医療サービス、決済システム、保険販売、教育などなど。中国はアメリカのネット企業にとって非常に魅力的なマーケットだからだ。