海和尚

海中のヒト型生命体

洋の東西に関係なく、海の中にはヒトの形に似た生物が生息していると言われている。

その代表が人魚である。

しかし中国には人魚とは多少雰囲気が異なるヒト型生命体の話も多い。

その多くは未確認生物であると考えることもできるし、妖怪の一種と考えることもできるような奇妙な存在である。

この点は日本と似ている。日本にも人魚の話の他に、海の中に棲むヒトに似た妖怪の話があるからだ。

中国人の一部は日本の海の妖怪と同じものが、中国の海にも出没すると考えている。

海和尚

中国で海の中のヒト型妖怪(未確認生物)と言えば海和尚(うみおしょう)が有名である。

日本でも海坊主海法師、海入道、海座頭などと呼ばれる妖怪が知られているので、同じようなものだと思われるかもしれない。

海座頭

しかし当サイトが収集した情報によれば、海和尚と海坊主の関係は単純ではない。

中国には海和尚についての様々な伝説がある。

海和尚についての伝説を比較すると、どうやら海和尚は1種類だけではないらしい。少なくとも2種類は存在するようだ。

ひとつはヒトまたはサルに似ている海和尚である。

袁枚(えんばい:1716年から1797年)の『子不語』には次のような海和尚についての話が記録されている。

潘(はん)という名の漁師が同業者と共に海浜へ出て網を入れると、非常に重い何かが網にかかった。

数人の力をあわせて引き上げると、網に数人の海和尚がかかっていた。

海和尚は漁師に向かって合掌していた。

全身は毛に覆われていて、まるでサルのようであった。頭の上部にだけ毛が生えていなかったそうだ。

海和尚は何か言葉を話すのだが、外国語のように意味がわからない。

漁師たちが網を開いて放してやると、海和尚は海の上を歩いて行き、数歩先で浪に沈んでしまった。

現地人の話によると、海和尚の肉を乾して食べると1年間は飢えないそうである。

現代の目撃証言

海和尚を目撃したことがあるという漁師の証言によると、海和尚は人間で言えば6歳くらいの体格をしているそうだ。

頭部はサルに似ていて目は非常に大きいという。ヒトの手足とそっくりの手足があり、体毛は生えていないそうだ。この点は『子不語』の描写とは異なる。

体の色は暗めの赤色である。食用の肉の色に似ているという話もある。

この目撃証言通りの海和尚が、1940年代の青島(ちんたお)西北部の海岸でも確認されている。

引き潮でできた潮だまりの中に取り残されていたそうだ。

その海和尚を発見した現地の漁師たちは、その場で海和尚を海に戻している。

1960年代までは、中国各地の沿海地域で、このタイプの海和尚がしばしば目撃されていたようだ。

中国には、人類の祖先は水中のヒト型生物であり、陸上生活に適応した生物が人間になり、海の中での暮らしを続けているのが海和尚であると考える人もいるようだ。

ただしこの説を裏付ける証拠は今のところ発見されていない。

タコ型の海和尚

海和尚は巨大なタコの姿をしているという説もある。

巨大なタコの姿をしているのなら、それはタコそのものであるとも考えられる。

しかし海和尚はタコではなく、漁民に対して怒りを抱いた鬼神が姿を変えたものだと考えられているのだ。

つまりタコ型の海和尚は未確認生物ではなく、妖怪であり霊的な存在なのである。

この他にも海和尚はカメに似た姿をしているという説もある。

鬼神が変化して海和尚になるのだとすれば、どのような姿の海和尚も存在しうると言ってよいだろう。

海和尚は、あるときはヒトに似た水生生物を指し、あるときは妖怪を表しているのだ。

日本の海坊主と同じものを中国人が海和尚と呼んだケースもあったはずである。

だから海和尚は日本の海坊主と同じとは言い切れないが、海坊主を意味する場合もあると考えればよいのである。

海和尚と吉凶

漁民にとって海和尚は不吉な存在であると考えられている。

海和尚を目撃したときは線香をあげて見送らなければならない。そうしなければ船が転覆すると言われているのだ。

この考え方は海和尚を霊的な存在と考える福建省沿海部などの地方で特に強く信じられているそうだ。

海和尚を発見した漁師たちが海和尚に危害を加えずに逃がす話が多いのも、海和尚の霊的な能力を畏敬していることの表れなのである。