不気味な頭部移植手術

神医の外科秘術

後漢末期に王允(おういん:137年から192年)という政治家がいた。

王允のもとには貂蝉(ちょうせん)という名の娘がいた。貂蝉は王允の婢女であったとも歌女であったとも言われている。

貂蝉は中国4大美女のひとりに数えられるほど美しい女性であった。

貂蝉の出身地は山西省北部の忻州(きんしゅう)木耳村である。貂蝉が「美人の気」を全て吸収してしまったせいで、現在でも忻州には美人がひとりもいないと言われているくらいだ。

当時朝廷内では董卓(とうたく:没年は192年)が実権を握り専横を極めていた。しかも最強の武将と言われた呂布(りょふ:没年は199年)が董卓の養子になっていたため、董卓は政治的にも軍事的にも盤石の地位を築いていたのだ。

王允は貂蝉の美貌を利用して董卓と呂布を仲たがいさせる計画を立てた。

まず始めに貂蝉を呂布に引き合わせ呂布との関係を深めさせた。そうしておいて貂蝉を董卓に引き渡したのだ。

王允の計略により、貂蝉は呂布に「本当は呂布の元に留まりたかったが董卓には逆らえませんでした」という気持ちを伝え続けた。

この結果、呂布は董卓を恨むようになった。そして呂布は董卓を殺害してしまうのである。

神のごとき医師・華佗

後漢の末期に中国で初めて本格的な外科手術を行った華佗(かだ:没年は208年)という医師がいた。後に曹操の侍医にもなる名医である。

華佗は麻沸散(まふつさん)という麻酔薬を発明して無痛の外科手術を可能にしたことで有名である。

麻酔を使わずに開腹手術を行うと筋肉が硬直して内臓が飛び出し、元に戻すことができなくなる。

手足の傷口を広げて矢じりを抜き取るような手術は以前にも行われていたが、内臓を切除する手術は華佗の麻沸散なしにはあり得ない治療法であった。

不気味な伝説

貂蝉は伝説的な美女であるが、その美貌は生まれつき具わっていたものではないという話が伝わっている。

ある日、華佗が王允の自宅を訪問したとき、王允は美女を使って董卓と呂布を仲たがいさせる計画を打ち明けた。

そして貂蝉に大役を任せるつもりなのだが、貂蝉の見た目が今ひとつ美しくないと言った。

これを聞いた華佗は数日後に美女の首を持って現れた。そして麻沸散を使って貂蝉を眠らせ、美人の首と貂蝉の首を交換してしまったという。この時に貂蝉の腹も切開し胆嚢の交換手術も行った。

華佗の説明によると、貂蝉のもともとの胆嚢は非常に小さかったので、大胆な計画を実行することは不可能であったというのだ。そこで豪胆な男性の胆嚢を手に入れ、貂蝉の胆嚢と交換したのである。

このとき華佗は仙界に行って西施(せいし:生没年不詳)の首と荊軻(けいか:没年はB.C.227年)の胆を手に入れたと説明している。

西施は越が呉に送り込んだ古代の美女である。当時から「美人計」を成功させたことで有名な歴史的人物であった。

荊軻は秦王・政(後の始皇帝)を暗殺しようとして失敗し、逆に殺された中国史上最も有名な刺客である。

いくら華佗でもこのふたりの体から「部品」を調達できたはずはない。首や臓器の交換を行うには現在の言葉でドナーと呼ばれる存在が必須なのだ。

このことが特に「首の交換」という医術に不気味な影を落としている。

現代の換頭術

頭部移植手術を中国語で「換頭術」という。

頭を切り離して移植するなど実際には不可能だと思われる人もいるだろう。しかし世界初の頭部移植手術はすでに秒読み段階のところまで迫っているのだ。

そもそも頭部移植手術の話は中国のローカルニュースではない。患者はロシア人、移植のアイディアはイタリア人医師から出されている。

ハルピン医科大学の主任医師が手術を実施するのに最適なのは中国であると主張してこの計画に参加したのである。

任主任医師のチームは1000例を超すマウスの頭部移植手術を成功させているそうだ。動物実験段階とは言え、換頭術についてのデータを豊富に蓄積しているのは間違いない。

世界初の頭部移植手術がハルピン医科大学で成功する可能性が強くなっているのだ。

このような試みは患者を救う治療であると同時に、最先端の医学研究の一部でもある。換頭術のような医学技術が完成することは人類にとって何を意味するのだろうか?

不気味な未来像

以前の中国人の観念では首を切り落とした場合に人間の魂は身体のほうに属していると考えられていた。だから首を交換した後の人の魂は身体の持ち主の魂に支配されると考えられていたのだ。

しかし現代の医学は魂は脳に宿ると考えている。つまり換頭術を行うと脳の持ち主の魂が全身を支配することになるのだ。

つまり老衰や病気で心臓や腎臓が機能しなくなっても、脳だけが健全であれば体ごと交換することができる。それが換頭術の医学的な意義である。

換頭術を行うには「全身は健康だが脳死してしまったドナー」という都合のよい遺体が必要だ。

都合よく条件が整った脳死者が出なければ、換頭術というテクノロジーは役に立たない。

では都合の良い脳死者への強烈な需要が高まればどうなるか?

この世には自分の命や家族の命が助かるなら誰かの命を犠牲にしてもよいと考える人は少なくない。

仮に他人の体を1億円で買いたいという人がいた場合、日本では不可能にしても海外なら十分に可能なのだ。

中国では誘拐や人身売買は頻繁に起きている。

いや、中国だけではない。むしろ誘拐されたりどこかへ売られたりすることを心配しなくてもよい日本の環境の方が、地球レベルの視点から見れば珍しいくらいなのだ。

犯罪と換頭術が融合すれば莫大な利益を生むビジネスが生まれる。

このとき貧しい人たちは富豪たちの若返りのためのパーツとして狩られる存在になるのだ。