不気味な頭部移植手術

陸判の換頭術

清代の秀才である蒲松齢 (ほしょうれい:1640年から1715年) の『聊斎志異』に「陸判」と題する話がある。

この話の中に女性の首を美人のものと取り換える話が出てくる。最初にこの話の概要を紹介しよう。

十王殿の鬼神像

山東省の陵陽鎮というところに「十王殿」という大きな神廟があった。十王殿の中には木造の鬼神像が安置されていた。

鬼神像の中に緑面に赤い髭を生やした判官像があった。この判官像が夜になると動き出すと評判になっていたそうだ。

この神廟の近くに朱爾旦(しゅじたん)という豪胆な男が住んでいた。朱爾旦は科挙の受験生であったが、学才がなく落第を繰り返していた。

ある日の夜のことである。朱爾旦は友人たちと酒を飲んでいた。酔った友人が半ば冗談で「判官像を背負って来い」とそそのかした。

すると朱爾旦は本当に判官像を背負って来た。朱爾旦は判官像を机の上に置いて敬酒した。友人たちは怖くなって帰ってしまったという。

朱爾旦は判官像を相手に酒を飲み「我が家は神廟から近いので、いつでも飲みに来てください」と言って元の場所に判官像を背負って行った。

鬼神との交際

次の日の夜に朱爾旦が自宅で酒を飲んでいると、昨日の判官が訪ねて来た。豪胆な朱爾旦は恐れるどころか大いに喜んで一緒に酒盛りを始めた。

判官は自分の姓は「陸」だと名乗った。話してみると陸判官は非常に学識があった。冥界でも学識や文才は大切なのだそうだ。

その後ふたりは度々酒を酌み交わす仲になった。

朱爾旦は自分の文章を陸判官に見せて評価を願った。陸判官は紅筆で添削してくれたが、余りにも下手な文章なので直しようがないこともあった。

心臓交換

ある時、一緒に飲んでいるうちに朱爾旦は先に寝てしまった。すると夢の中で腹の中に痛みを感じた。そのせいで目を覚ますと、陸判官が朱爾旦の腹を裂いて内臓を引きずり出していた。

朱爾旦が「何の恨みがあって私を殺すのか?」と訊ねると陸判官は「心配するな。千万の心臓の中から一番よい心臓を見つけてきたから、貴殿の心臓と取り換えてやったまでのことだ」と答えた。そして内臓を腹の中に戻して腹を塞いだ。

陸判官は机の上の肉の塊を指さして「あれがもともとの貴殿の心臓だ。あれが気の流れを塞いでいるうちは学問の成果が現れぬのだ」と言った。

この手術の成果はすぐに現れた。朱爾旦は科挙の2次試験にみごと合格したのである。あとは最後の試験である殿試に合格すればよいだけだ。そうなれば進士となり高級官僚の仲間入りが約束される。

経緯を聞いた朱爾旦の友人たちは陸判官を紹介するように願い出た。そこで陸判官を招いて宴会を開くことになったが、集まった友人たちは陸判官の姿を見ただけで逃げ出してしまった。陸判官の姿はそれだけ恐ろしいものだったのだ。

首の交換

残された陸判官と朱爾旦はふたりで酒を飲み始めた。

酔いが回って来たところで朱爾旦は相談を持ち掛けた。実は自分の妻は見た目がよくないので美しい女の顔と交換できないかと言うのだ。これを聞いた陸判官はしばらく考えさせてくれと答えた。

数日後の夜、陸判官はどこからか美人の首を手に入れて持って来た。そして眠ていた妻の首を切り落として美人の首を取り付けたのである。陸判官は切り落とした首を人目につかない所に埋めるように言って帰って行ったそうだ。

この後、妻の首は吴という名の娘の首であることが判明する。その娘は首を切り落とされて殺害された後に首だけが行方不明になっていたというのだ。

「陸判」の話はまだ続くが、首の交換の話はここまでである。この話は中国では古くから人間の首を交換することができると信じられていたことを示している。