中国の麻雀事情
中国ではギャンブルは禁止されている。
意外に思われるかもしれないが、中国はギャンブルに関して、公式には日本よりも清潔な国なのである。
中国には日本の「宝くじ」に相当する彩票は存在するが、競輪や競馬のような公営ギャンブルは存在しない。
しかしこれはあくまでも「公式には」の話である。
そもそもマカオがカジノの中心地であることは有名だ。
さらに中国大陸内の各所に違法な地下カジノが存在することは周知の事実なのである。
ギャンブルは大規模な地下カジノだけで行われるわけではない。金銭を賭けた麻雀やトランプはありふれた娯楽のひとつになっている。
中国にも棋牌室、打牌室などと呼ばれる日本の雀荘に相当する施設があり、そのような施設内では金銭を賭けた麻雀が行われているのだ。
棋牌室にはピンからキリまである。
同じ部屋に複数の麻雀卓がある施設もあれば、豪華な個室に分かれている場合もある。個室はサウナなどを併設した娯楽施設の一部になっていることもある。
巨額麻雀賭博
中国のニュースの中で土豪という言葉が使われることがある。
土豪は地方の金持ちで品格がない人を指す単語だ。日本語の「成り金」に近い言葉だと思えばよい。
現在の中国には多くの土豪が存在する。彼らの財力はもの凄い。
かつてシンセンの土豪たちが賭けマージャンで半年のうちに1億2千万元以上を失い話題になったことがある。1億2千万元は日本円に換算するとおよそ18億円くらいにはなる。
財力をもった人間たちがギャンブルに手を染めると「億」単位の金銭が飛び交う結果になる。現在の中国では数十億単位の賭博は珍しくはない。
このケースでは単に掛け金が高額だっただけではなく、勝ちつづけていた男がイカサマ師であったことから、大きなニュースになったのだ。
イカサマ麻雀の手法
麻雀というゲームには単なるゲームを超えた神秘性と怖さがある。
その道のプロの手にかかれば、積み込み、すり替え、その他の技で、簡単に丸裸にされてしまうイメージだ。
ところが全自動マージャン卓の登場によりイメージは一変した。
マシーンを使うと配牌の時点でのイカサマはできなくなる。積み込みなどの手法で最初から不利な状況に追い込まれる危険を回避できるのだ。
全自動マージャン卓は麻雀の発祥地である中国ではなく、日本で発明されたものだ。菅直人(かんなおと)が特許を持っているとの都市伝説すらあるらしい。
中国の麻雀牌は日本の麻雀牌よりも大きい。したがって日本の全自動マージャン卓を中国に持ち込んでも機能しない。
しかし現在の中国では、中国の牌のサイズに合わせた全自動マージャン卓が作られ、普及している。
やはり便利であり、かつ安全なイメージがあるから、中国でも歓迎されているのだ。
しかし全自動マージャン卓が安全だというのは、実情を知らない者たちの誤解なのである。マシーンには様々な罠を仕掛ける余地があるからだ。
シンセンの事件の内容をもう少し詳しく説明しよう。
ゴルフ練習センター
シンセン・香蜜湖のゴルフ練習センターの2017号室で、5人の土豪たちが賭けマージャンを繰り返していた。
半年のうちに3人の負けはそれぞれ日本円換算で数億円に達したが、2人は負けたことがなかった。
当初は自分の運が悪かっただけだと考えていた土豪たちは、何かイカサマが行われているのではないかと疑った。
ある日、2017号室を調べてみると、天井にいくつもの小さな穴があり、そこに小型カメラが仕掛けられているのを発見した。やはりイカサマの可能性が高い。
土豪たちはカメラの角度を変えて、何食わぬ顔で部屋を出た。
その場で騒がないあたりは、さすがである。土豪とバカにされてはいるが、生き馬の目を抜く中国で金持ちになるだけあって、それなりの知恵があるのだ。
部屋は監視下に置かれた。
数日後、カメラの方向がおかしいことに気づいたのだろう。いつも勝っていた男たちが現れて、カメラの角度を直し始めた。これでカメラを仕掛けたのは俺たちではないとの言い逃れはできない。
土豪たちはその現場を取り押さえて、ふたりを警察に突き出したのである。
調べによるとイカサマ師は単にカメラを使っていただけではなかった。マージャン卓に細工をして、自分たちに有利な配牌をさせていたのである。
しかも彼らには仲間がいた。仲間は捨て牌分析ソフトを用いて最適の捨て牌を特定し、ふたりに捨て牌を指示していたのだ。
捨て牌の指示には、耳の穴の奥に入るイヤホンを使っていた。
このようなイヤホンを使うと外見からはわからない。
ハイテク化するイカサマ
マージャンのイカサマには大きく分けで3種類の手法がある。
ひとつは相手の牌を見透かす手法だ。
小型カメラを使う方法の他にも牌に特殊な塗料を塗る手法や、牌のなかに仕込まれた電子部品により牌を特定する方法などがある。
マージャンは相手の持ち牌がわかればそれだけで必勝と言えるほど単純なゲームではないらしい。
確実に勝つためには、捨て牌分析ソフトを使わなければならないのだ。現在の中国ではスマホにインスト可能な捨て牌分析ソフトが存在する。
スマホがPCと同レベルのスペックを持つようになり、捨て牌分析は以前よりも身近なものになっている。
また自分の配牌が悪ければやはり勝率は下がってしまう。そこで配牌自体を有利にするためのマシーンが開発されている。
配牌をコントロールするためには、全自動マージャン卓を改造しなければならない。しかも座る位置やタイミングによって配牌を変化させる必要がある。
常に特定の座席に座った人物の配牌がよいと、イカサマが発覚しやすいからだ。
そこで全自動マージャン卓に仕込んだ装置をリモートコントロールする必要が生じる。
現在の中国で配牌をコントロールするイカサマは、全自動マージャン卓とリモートコントロール装置の組み合わせで行われるのが一般的である。
イカサマ師たちは、これらの手法を組み合わせることによって、確実に勝てる環境を整えているのだ。
ある程度の初期投資はかかるが、巨額のギャンブルに引き込めば簡単に回収することができる。
大きな金銭が飛び交う場では「まさか」と思われるような仕掛けが随所に施されているのだ。