墓穴を掘った脅迫犯人の正体

SNSで探し当てたパートナー

雲南省の東に曲靖(きょくせい)という地区がある。

曲靖の大部分は自然が豊かな農村地帯だ。

2017年4月のことである。曲靖に住むWという女性がSNSを通じてYと名乗る男性と知り合った。

離婚してシングルマザーとなっていたWは、Yと知り合ってから半年後にYと同棲を始めた。

Yはゼロから起業して住宅と自家用車を所有するまでの成功を収めた人物だった。周囲の人はYに一目置くほどの男だったようだ。

ところが2018年の3月にWとYはケンカをした。

ケンカの原因は明かされていないので詳しいことはわからないが、ケンカの後にWが別れようと言い出したというから、ふたりの仲はかなり深刻な状態になっていたと考えられる。

脅迫

別れを切り出されたYはWに電話をかけた。

そして「もしも分かれるならお前とお前の娘を殺す」と脅迫したのである。

Wには離婚した夫との間に娘がいたのである。

恐ろしくなったYは公安に通報した。

公安はYに電話をかけて出頭を要請した。双方の言い分を聞くためである。

しかしYは出頭を拒否した。公安はYの非協力的な態度に不審を感じたようだ。

公安はWの証言を頼りにYの身元を調査した。すると思いがけない事実が発覚したのである。

驚くべきことにYの名は偽名であった。

Yの本名はXであることが判明したのだ。Xは34歳。貴州省の出身であった。

なぜ公安に詳細な資料があったのか?

実はXは殺人事件の容疑者としてシンセンの警察に追われていたのである。

殺人事件

2005年4月のことである。

シンセンの龍崗市(りゅうこうし)に出稼ぎに出ていたXは、劉崗市で知り合った恋人と言い争いになり、その女性の首を絞めて殺害した。

Xは農薬を飲んで自殺を図ったが、病院に運ばれ、胃洗浄を受けて助かっている。

このときにあまりにも苦しかったので、Xは自殺を思いとどまった。そして公安が来る前に点滴の針を引き抜き、逃亡生活を始めたのである。

その後Xは友人の名義を使ってアルバイトをしながら、広州(広東省)、貴陽(貴州省)、興義(貴州省)、文山(雲南省)などを転々とし、最終的に曲靖に落ち着いて起業したのだ。

曲靖の一風景

そこから着実に事業を軌道に乗せ、地元で一目置かれるほどの存在になっていたのだ。

Wを脅迫しなければ公安から目を付けられることななかったはずだ。

Xが13年前の殺人犯であることを突き止めた公安は、10日間かけて入念に準備を整え、曲靖の住宅地でXを逮捕したのである。

公安の情報網

中国の「省」はひとつの国と同じくらいの規模がある。

省が異なれば公安の管轄も異なり、情報のやり取りが不十分になりそうにも思われる。

しかし現在の中国では、省を跨いだ人の移動は当たり前だ。公安はこの状況に完全に対応しているようだ。

公安は、犯人と同棲していた女性からの情報だけで、別の省で13年前に起きた殺人事件の犯人を特定する能力を持っているのだ。

全国の公安が利用可能なデータベースに、かなり詳細な犯人像が記録され、しかも様々な角度から検索可能になっていると見るべきである。