偽タバコ製造という犯罪の実態

中国のタバコとその価格

中国人のタバコ好きは有名である。中国ではタバコは単なる嗜好品ではない。コミュニケーションの手段であり社交の手段でもある。

中国では1本のタバコを手渡すところから会話が始まることも珍しくない。

中国人は体に良いことが大好きなのにタバコがなくならないのは、タバコが中国人の生活習慣に溶け込んでいるからだ。

最近の日本ではタバコは安い嗜好品とは言えなくなっている。中国ではどうだろうか?

一般的に中国の物価は日本より安い。しかしタバコの価格は日本よりも安いとは限らないのだ。

中国のタバコの値段にはブランドによって非常に大きな開きがある。

高級品は日本のタバコよりも高いと思って間違いない。タバコひと箱が庶民的な食事5回分くらいの値段に相当することもあるのだ。

高級タバコ

また同じブランドでもパッケージによってかなり値段が異なるのも中国タバコの特徴だ。だから例えば高級タバコの代表格である「中華」の価格はいくらかと訊ねられても、パッケージによって値段が異なるので一概に言えないという複雑さがある。

インターネットで中国のタバコの価格を検索すると、量の単位が複数あり、パッケージの種類も複数あるので、いくらが適正価格なのか分かりづらい。

あるブランドのあるパッケージの定価がいくらか調べようと思っても、複数の数字がヒットするので、どれが正しい価格なのか判断が難しいのである。

日本にはない犯罪

日本では密かにタバコを製造して販売する犯罪者はいないだろう。そもそも日本にはそういう発想自体がない。

ところが中国では偽タバコを製造販売する集団が存在するのだ。

高級タバコの価格が中国の物価水準に比して非常に高いこと。タバコの定価が分かりづらいこと。

このふたつが偽タバコ製造のインセンティブになっていると思われる。

以下、2011年に広州で摘発された偽タバコ製造集団のケースを例に、偽タバコ製造販売の実態を紹介しよう。

偽タバコ製造

偽タバコの製造は広州で行われることが多い。これは複数の報道が指摘している事実である。

広州ではタバコを製造する機械を買うことができるらしい。したがってその気になれば家内工業的に偽タバコを製造することが可能なのである。実際に家族全員で偽タバコを製造していた人たちが摘発されたケースも報告されている。

2011年に広州で摘発されたケースも一般の民家の2階で偽タバコを生産していた。

大規模な工場が必要なら摘発しやすいが、一般の民家でも製造できるとなると根絶は難しい。いくら摘発しても偽タバコがなくならないのは、製造段階での規制が難しいことがひとつの理由であろう。

偽タバコの原料

製造機械は購入できるとして、原料のタバコはどのように調達するのだろうか?

原料には大きく分けて3種類あるという。

ひとつは正式なタバコ工場から出る廃棄物である。タバコを作るときに出る切れ端やカスを利用するのだ。

もうひとつはタバコ農家からの直接の買取である。このような原料からは高品質のタバコが作られそうであるが実はそうではない。

タバコ製造にはタバコの葉を熟成させる工程が必要なのである。そしてこの工程には高い技術が要求される。タバコ製造に熟達したプロでなければ不可能だと言われている。

結局、偽タバコには熟成を経ていないタバコの葉が使われることになる。そうするとプロが製造したものとは全く違う製品になってしまう。

さらに安いタバコをほぐしてタバコの葉を回収し、これを原料にして高級品につくり変える方法がある。この方法を使うと、熟成しフレーバーを添加した葉を用いることになるので、タバコとしての完成度は高くなるのである。

偽タバコの運搬と流通

偽タバコの運搬には大都市を結ぶ長距離バスが利用されるという。いわゆるハンドキャリーだ。

破棄される偽タバコ

手荷物として運べる量には限りがあるから、偽タバコ製造の規模はその程度のものが一般的なのだろう。

運搬した先の大都市で偽タバコを扱う卸業者に販売する。各販売店には地元の卸業者が偽タバコを流通させているのだ。

末端の販売店では自分が偽タバコを売っていることに気づいていない場合もあると言われている。

高倣煙

タバコは嗜好品であるから偽タバコなどを売っても消費者が味の違いに気がつくのではないかと思われるだろう。

確かにタバコ工場の廃棄物を使ったり、熟成していない葉を原料にすると、味の違いが目立ってしまうようだ。しかし安いタバコを原料にすると、一般の消費者には区別がつかなくなるらしい。

安いタバコを原料を用いた偽タバコを高倣煙という。

高倣煙の製造にはコストがかかるが、それでも本物よりは格段に安く提供できるので、十分に利ざやをかせぐことができるのだ。

中国の正規のタバコは安いものと高いもので非常に大きな価格差がある。だからこそ安いタバコを高いタバコに作り変える芸当が可能になるのだ。

日本人が中国で高級タバコを買うとすれば贈答用であろう。こんなときに偽タバコを買ってしまうと、プレゼントの効果がなくなってしまう。

本物を見分けられる人と一緒に購入するなどして、くれぐれもニセモノをつかまされないように注意する必要がある。