不幸を呼び寄せる鬼屋
中国には凶宅、鬼屋、鬼房子ということばがある。これらは全て怪奇現象が発生するような不吉な建物をさす言葉である。
別の記事で鬼楼という言葉を紹介したが、鬼楼は一般的に高層の建物に使われる言葉であるのに対して、凶宅、鬼屋、鬼房子は一軒家に対して使われることが多い。
鬼屋で発生する典型的な怪奇現象は、原因不明の怪音の発生である。誰もいないはずの部屋から物音が聞こえるという話は枚挙にいとまがない。
鬼屋では単に怪奇現象が起きるだけではない。鬼屋に住む住人には災厄が降りかかると考えられている。
借りた部屋が鬼屋であるなら引っ越せばよいが、自分が建てた家が鬼屋になってしまうと、簡単に諦めるわけにはゆかない。
そこで自分が建物の施主となる場合には、その建物が鬼屋にならないように気を配る必要があるのだ。
鬼屋が出現する理由はひとつではない。
戦地や墓地だったところに建物を建てたり風水的に凶とされる土地に建物を建てると鬼屋になる可能性が高い。
また建物の中で事故や自殺で人が死ぬと、その建物は凶宅とみなされるようになる。
さらに呪いによって鬼屋が出現する場合もある。その呪いの典型が木工厭勝(もっこうえんしょう)である。
木工厭勝
中国には古くから厭勝(えんしょう)という呪法が存在する。これは悪鬼などの魔力を制圧するための呪法であるが、広くは幸運を呼び寄せる呪法も含んでいる。
厭勝の中でも特に木工職人や建設業者のあいだに脈々と伝えられる呪法を木工厭勝という。
木工厭勝の秘儀は木工職人の祖先神である魯班が記したとされる『魯班書』に記載されているとされている。
ただし『魯班書』の中でも木工厭勝の核心に関わる部分は門外不出の奥義なので一般の目に触れることはないという。
『魯班書』に記されている木工厭勝は、家屋を鬼屋に変えてしまう恐ろしい呪術だ。
身を守るための呪い
なぜ魯班はこのような呪術を木工職人たちに授けたのか?
昔の中国では職人の地位は不安定だったようだ。
給金を払う段階になって仕事の具合に様々な言いがかりをつけて減額を迫るケースが少なくなかったようである。
立場の弱い職人は、いやいやながら減額を承諾するしかなかったのだが、それに対する復讐として家屋に呪いをかけたのである。
木工厭勝によって鬼屋が出現する。
このことによって「職人に恨まれると呪われる」という観念が一般化したのだ。これこそが木工職人の祖先神・魯班の意図である。
実際に今でも中国では、建築業者に対する饗応に金銭を惜しんではならないと考えられている。
建築業者の機嫌を損ねると、木工厭勝によって家が祟られると考えられているからだ。
木工厭勝は親から子へ、親方から徒弟へと伝えられる秘法であり、元代以降に盛んになったといわれている。
具体的な方法は極秘とされているが、木を削って人形を作り、それに呪文を書いて壁に塗り込めたり、梁の裏に隠したりして家を呪うと言われている。
当サイトに寄せられた情報によると、基礎工事の段階で鶏の血をまく方法もあるようだ。