頭蓋骨に寄生する溶骨虫

医学研究

これは河南省の北部・新郷市(しんごうし)の病院に勤務するC医師が親しい友人に語った話である。

この話をする前に予備知識を確認しておこう。

皆さんは耳の周囲に小さな穴が開いている人を見たことはないだろうか?

それは先天性耳瘻孔(せんてんせいじろうこう)とよばれる一種の畸形である。

畸形と言っても人口の3%強に存在すると言われているので、異常とまでは言い難い。

化膿するなどの症状を示さない限り、放置しておいても何ら問題はないそうだ。

さて、ここからが本題である。

かつてC医師は新郷市の西に位置する焦作市(しょうさくし)の農村部で、住民たちの健康状態を調査する調査団に加わったことがあるそうだ。

Cは耳鼻科医であった。だからC医師は調査項目の中に先天性耳瘻孔の出現頻度を加えていた。

できるだけ簡単に集計できる調査項目を増やして、論文を量産する必要があったからだ。

好発地域

調査団はひとつの村で調査を終えると、また別の村に移動するというパターンを繰り返して調査を行っていた。全体で3週間の長丁場である。

ある村に移動したとき、とてつもない調査結果が得られた。先天性耳瘻孔をもつ人が驚くほど多かったのだ。

なぜ先天性耳瘻孔ができるかについては、遺伝的な要素が関係しているという説が有力である。

その村の人たちは、ほとんどがお互いに遠い親戚であった。C医師は先天性耳瘻孔と遺伝の関係を示す有力なサンプルが得られたと確信した。

先天性耳瘻孔には、非常に小さなものから、非常に目立つものまで、かなり大きな個人差がある。

ただし見た目は大きそうに見えても、穴の深さは通常は2センチ以下である。

C医師は先天性耳瘻孔の穴の深さまでは調査項目に加えていなかった。そのようなことをすると面倒だからだ。

しかしプローブを持参していたC医師は、検査の途中で純粋な好奇心から、ひとりの男性の先天性耳瘻孔にプローブを挿入し、深さを確かめてみた。

するとプローブの先が柔らかい「何か」に触れた感触が伝わってきた。しかしその「何か」の感触はすぐに消滅した。

プローブをさらに深く沈めると、プローブはどこまでも深く潜って行った。

そのときC医師は事故を起こしてしまったと思ったそうだ。プローブは骨を突き抜けるくらい深く刺さっていたからだ。

しかし男性は痛がる様子を見せなかった。全く平然としていたのだ。

我に返ったC医師は、この男性の先天性耳瘻孔は異常なほど深いことに気がついた。

しかし先天性耳瘻孔が骨の中まで続いているはずはなかった。

もしかすると先天性耳瘻孔に似ている別の畸形か、あるいは未知の病気かもしれない。

もしそうだとすれば大発見である。

単なる数合わせのための論文ではなく、将来の出世につながる重要な論文を書き上げることができる可能性が出て来た。

C医師はその男性に現金を渡し、2週間後に病院に検査に来るとの約束を取り付けた。

検査

村で出会った男性は約束の日に病院にやってきた。

中国の病院で治療や検査を受けるには、まず掛号という手続きをしなければならない。これがやっかいなのだ。特に午前中は掛号のために長時間並ばなければならない。

C医師は予め男性のために掛号をしておき、すぐにレントゲン撮影ができるように手をまわしておいた。

ひと昔前のレントゲン撮影とは異なり、現在では画像をフィルムにプリントする前にPCの画面上で結果を見ることができる。

中国ではレントゲン技師ではなく、画像診断の専門医がレントゲン撮影を担当する。

C医師は画像診断の専門医と仲が良かったので、レントゲン装置を制御する部屋の中に入り、PCの画面に結果が映し出されるのを待った。

鈍い機械音と共に撮影が終わり、画面には頭部のレントゲン写真が映し出された。

それを見たC医師は驚愕した。頭蓋骨の内部に長細いトンネル状の穴が無数に形成されていたからだ。

穴の大きさから推測すると、小さいサイズのミミズくらいの何かが骨の内部に寄生しているようであった。

頭部を切開してみなければ寄生虫の正体はわからない。C医師は焦作市から来た男性に入院を勧めた。

しかしその日のうちに帰宅しなければならない事情があるとのことで、入院は断られてしまった。

C医師は別の患者から受け取っていたタバコ1カートンをその男性に与え、再度研究に協力する約束を取り付けた。

研究論文

男性は新発見の寄生虫感染症に罹っているに違いない。C医師はこの症例だけで何本か論文が書けるともくろんだ。

極めて特異なレントゲン写真だけでも論文を1本書くことができる。

さっそくC医師はレントゲン写真を添付した論文を書き上げ、病院内の審査機関に提出した。

その2日後にC医師は院長から呼び出された。

称賛の言葉を期待したC医師は、頭の中で想定問答を繰り返しながら、院長室を訪れた。

院長はC医師をソファに座らせ、この研究を中止し、全ての資料を破棄するように命じた。

そして次のような話を語ったという。

この寄生虫は十年以上前に別の医師が発見し、省レベルの重要な研究対象として相当深く研究されていた。通称は「溶骨虫」である。

溶骨虫は先天性耳瘻孔から侵入して皮下組織の中に寄生する。そして頭蓋骨を溶かして穴を開け、骨の中に長いトンネル状の巣を作るのだ。

不思議なことに、寄生された患者は全く何の症状も示さない。痛みも不快感も感じないのだ。

溶骨虫が痛覚をコントロールしているからとしか考えられない。しかしどのようにして痛覚をコントロールしているのか、いくら研究しても解明することはできなかったそうだ。

研究の過程で奇妙な事実が判明した。

溶骨虫に寄生された患者は未来を予知できるのだ。ただし近い将来の天候予測に限られる。

例えば彼らが「3日後に雨が降る」と言うと、3日後には確実に雨が降るのだ。

どうしてわかるのかと質問しても、そう感じると答えるだけで、本人にもなぜ予知できるのかわからないようである。

中国では病院に限らず、あらゆる組織の上層部は共産党の幹部が兼任している。この不思議な現象は共産党の組織を通じて北京に伝わった。

すると間もなく、全ての研究データを人民解放軍の担当官に引き渡し、今後の研究は一切中止せよとの命令が下されたのである。

国家指導者レベルの人物による判断だと示唆されたが、具体的に誰の意向かは示されなかったそうだ。

それ以来、溶骨虫の研究はタブーとなっていたのだ。

憶測

C医師はもちろん、病院長ですら、研究を中止しなければならない理由の説明を受けてはいない。

それだけに病院内で溶骨虫のことを知っている医師たちのあいだでは、様々な憶測が囁かれているという。

溶骨虫の研究を軍が独占するためだという説が大勢を占めているが、そもそも溶骨虫は軍が開発した生物兵器の変種であるという説もある。

真相は謎のままであるが、C医師は先天性耳瘻孔を見るたびに、どうしても溶骨虫を思い出してしまうそうだ。

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Posted by 編集長 妙佛大爺

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