三仙姑の祭事で発生した大量爆死の謎

女神・三仙姑

中国の商店の中には財神が祀られていることが多い。財神は商売の神であり、お金の神様だ。三国志で有名な関羽も中国では財神として祀られている。

関羽は財産の守り神なので必ず店舗の内側から外を睨む位置に鎮座する位置に置かれている。

関羽と並んで人気があるのは財神は趙公明である。

趙公明は多くの部下を抱える道教の神だ。趙公明の部下には富を招き宝を築く役目の神がたくさんいる。それらの神の統率者である趙公明が財神として崇められるのは当然であろう。

この趙公明の妹分とも言うべき3人の女神がいる。

雲霄(うんしょう)、瓊霄(けいしょう)、碧霄(へきしょう)という3人の仙女だ。この3人を合わせて三仙姑または三霄娘娘と呼ぶ。

三仙姑は子宝の神とされている。子宝を授ける三仙姑の霊力はかなり以前から知られていた。例えば元代のエピソードとして次のような話が伝えられている。

河南省に安陽長春観という道教の聖地がある。

その付近に張と聶という名の夫婦が住んでいた。ふたりは非常に信心深く寺院への寄付や貧しい者たちへの施しを積極的に行っていた。

この夫婦には子がなかった。祖先を祀る子孫を残すことは婚姻後の至上命題である。世間からは善人と崇められる夫婦も決して幸福な夫婦とは見なされなかった。

妻の聶氏が40歳になったある日の午後のことである。軽い眠りに落ちた途端に夢を見たのだ。

赤ん坊を抱いたひとりの仙女が現れ「あなたたちは本来なら子が授からないように運命づけられています。ですが、日ごろの善行に報いるために女児を授けに来ました」と言った。その瞬間、仙女が抱いていた赤ん坊の姿が消えたそうだ。

夢に現れた仙女は神廟に祀られている三仙姑のひとり、雲霄にそっくりであったという。

目覚めた聶氏はすぐに体調の変化に気づいた。

医師を呼んで確認すると確かに子を授かっていることが判明したのである。10月後には仙女の言葉通り女児が生まれたそうだ。

安陽長春観は現在でも子宝祈願の聖地である。

道教の聖地・峨眉山

四川省の西南部に「峨眉天下秀」と称される峨眉山(がびさん)がある。峨眉山はユネスコの世界遺産にも登録されている有名な景勝地だ。

峨眉山の雲海

峨眉山は富士山のように輪郭が明らかな山とは違う。峨眉山はひとつの山の名前ではなく広い山岳地帯を指す地名のようなものだと理解したほうがよい。

峨眉山にはいくつもの山峰があり、峰々は背後の山脈とつながっている。平地から眺める峨眉山は神が棲む山岳地帯と人間界のあいだに横たわる関門のようにも見えるのだ。

峨眉山は古くから仏教の聖地として知られている。

峨眉山は五台山、九華山、普陀山と並ぶ四大仏教名山のひとつに数えられているのだ。峨眉山の各所には26もの寺院が点在している。

中国国内でも峨眉山と言えば仏教のイメージが強い。しかし峨眉山は道教の聖地でもあるのだ。

4世紀に記された道術書『抱朴子』には峨眉山に道教修行者を訪ねる記述がある。このことからも明らかなように峨眉山はかなり以前から道教の修行場だったのだ。

実は子宝の神・三仙姑も峨眉山で修行をしていたとされている。

三霄洞

峨眉山の山腹に仙峰岩と呼ばれるスポットがある。ここには宋の時代に建立された仙峰寺(せんぽうじ)という寺がある。

この仙峰寺の南西に三仙姑を祀る三霄洞(さんしょうどう)という洞窟があったという。

三霄洞は険しい山の中にあり、周囲の環境があまりにも過酷だったので、長年放置されていたようだ。洞窟の周囲は草木に覆われていたという。

1925年に四川省・自貢から来た演空という名の修行者が三洞を復活させた。

洞窟の周囲を清掃し、周囲の環境を整備して、三娘娘を祀る廟を建設したのだ。

足場の悪い山道を歩いて三霄洞に到達するのは容易ではなかった。それでも三霄洞は多くの人々の信仰を集めたようだ。子宝の神にすがる人々の気持ちはそれだけ強烈なのである。

三仙姑の怒り

1927年の夏。信者の寄付により三霄洞の廟に銅鐘が奉納されることになった。

銅鐘奉納の当日には多くの信者が訪れた。

しかし神に供物を捧げる神聖な行事は思わぬ展開を見せることになる。

祭り気分に浮かれた信者の一部が太鼓を打ち鳴らし、歌を謡い、踊り出したのだ。

住職は三仙姑は喧騒を嫌うので静粛にするようにと諭した。

しかし信者たちは住職の声に耳をかさず、大きな音を立てて謡い踊り続けたという。銅鐘奉納の式典は踊り浮かれる信者の喧騒によって乱痴気騒ぎの様相を呈していた。

突然、三霄洞の奥で大きな音が轟いた。

この爆音に続いて三霄洞の奥から巨大な炎が噴出したのである。その炎はまるで怒り狂う龍のようであったという。

炎の勢いは凄まじく、その場で72名が即死した。

知らせを受けた政府は直ちに三霄洞を封鎖し、洞窟の外の廟も徹底的に破壊した。その上で近隣一帯を立ち入り禁止区域にしてしまったのだ。

爆発発生の謎

この事件の原因についてはさまざまな説がある。

例えば洞窟内で何か引火しやすいものが照明に使われていて、それが爆発したという説がある。似たような見解として、洞窟内で何かが不完全燃焼して可燃性ガスを発生させ、そのガスが爆発したとの見解もある。

しかし洞窟内の自然発生的なガス爆発で一度に72名もの死者が出るだろうか?

多くの人は疑問を抱いている。

そこで空軍の軍事演習中の事故であるとの説まで浮上しているのだ。

しかし軍事演習のミスで洞窟から炎が噴き出すとは考えづらい。また事故が原因なら航空機の目撃証言や軍当局の何らかのアクションが残されているはずである。そうしたものが一切ない以上、軍の関与の可能性は非常に低い。

では何が原因なのだろうか?

信心深い人たちはこの怪事件の原因を三仙姑の怒りであると考えている。