悪霊が棲みつく鬼楼の恐怖

鬼楼とは

中国では怪奇現象が起きる建物を鬼楼または凶宅と呼ぶ。

鬼楼は中国各地に存在する。各都市にひとつくらいは鬼楼があると言っても過言ではない。鬼楼の中には地元だけで囁かれているものもあれば全国的に有名なものもある。

当サイトには中国の協力者たちから鬼楼に関する多くの情報が寄せられるが、そうした情報の中から興味深い鬼楼の情報をいくつか紹介しよう。

遼寧省瀋陽の鬼楼

遼寧省中部に位置する瀋陽。年間の平均気温は10度以下。冬はマイナス30度以下にもなる極寒の地だ。

この過酷な自然条件にもかかわらず瀋陽には多くの人たちが生活している。街には地下鉄が走り高層ビルが乱立している。中国東北部の主要都市のひとつなのである。

その瀋陽に1990年代に建設された集合住宅がある。一見すると何の変哲もない集合住宅なのだが事情を知っている人は決してそこに住もうとはしなかった。なぜならその住宅の敷地はかつては墓地だったからだ。

建設工事の最中に全身が白く髪も純白の女性の屍体が発見されたが、開発業者によって闇に葬られたという噂もある。

古老たちが危惧したとおりその住宅は瀋陽鬼楼として全国的に有名になってしまった。あまりにも奇妙な怪奇現象が相次いだからである。

最初に噂になった怪奇現象のひとつは怪音である。深夜になると屋内で女性の泣き声が聞こえるというのだ。

また深夜に呼び鈴が鳴ることもあったという。

子供のいたずらだと考えて呼び鈴が鳴るのを待ち構えていた住民の証言によると、呼び鈴が鳴ったときに外をのぞくと眼球が赤い女が立っていたという。

これだけでも十分に不気味な話であるが、瀋陽鬼楼の怪奇はこの程度では収まらない。

身体移動現象

信じがたいことではあるが、瀋陽鬼楼の中では身体移動現象が生じるのだ。そう言っても何のことかお分かりにならないだろう。具体的には次のようなことが起きていたのだ。

ある住民は室内のベッドで寝たはずなのに次の日の朝目を覚ますと、バルコニーに移動していたという。

また別の住民は自宅で寝ていたはずなのに翌朝目を覚ますと別の家族の部屋にいたというのだ。

寝ているあいだに別の地点に移動する不可解な現象。それが瀋陽鬼楼の身体移動現象なのである。

身体移動現象は移動する本人にとっても驚きであるが、移動先の住民にとっても恐怖である。朝目を覚ますと別の部屋の住人が自分の部屋にいるからだ。警察が呼ばれる騒ぎになったのは当然と言えるだろう。

移動した当人は寝ているあいだに自分でも知らないうちに移動したと弁解した。このような弁解を警察が信じるはずはない。しかし移動したと主張する住民は本当に移動したと思い込んでいる様子であった。

そこで思い込みをただすために実験を行うことになった。

現地の政府が武装警察を派遣し、隊員が建物内部の部屋で就寝した。それを住民も確認したのだ。驚くべきことに室内で寝たはずの隊員は翌朝バルコニーに移動していたのである。

この実験結果の衝撃は強烈であった。それまで噂話に過ぎないと思われていた怪奇現象の全てが信憑性を帯びる結果になったのだ。住民たちは相次いで引越し、瀋陽鬼楼は無人の建物になってしまった。

しかし瀋陽鬼楼の怪奇はいまだに終わっていない。

現在でもタクシーが女性の乗客を鬼楼に運んだ後、受け取った紙幣に黄紙が混じっていたという話が伝えられている。黄紙は死者を祀る際に燃やす冥界で用いるための紙幣である。

瀋陽鬼楼の怪奇は建物の下に埋葬されている死者の魂が作り出す現象であると考えるしかないのである。

貴州省貴陽の鬼楼

貴州省貴陽は「夜郎自大」で知られる野郎国の土地であった。昔は竹の産地として知られていたらしい。漢の時代には中国の土地になるが今でも少数民族が多数暮している。

貴陽の海抜が1000メートル以上もあるが、南方に位置するために亜熱帯特有の湿潤な気候であり、年間の平均湿度は70%を超えている。

このじめじめとした空気は廃墟をあっという間にカビだらけの空間に変えてしまう。一度放棄された建物は容易に人を寄せ付けない黒カビの巣になってしまうのだ。

貴陽の中心部に次南門という土地がある。付近には高層ビルが立ち並び地下鉄の駅もある一等地だ。

ここに1990年代初期に建設された23階建てのビルがある。交通の便もよく付近の環境も悪くない。

しかし奇妙なことに20年ものあいだ無人のビルなのだ。もちろんそれには理由がある。理由は怪奇現象なのだ。

もともとこのビルには人が住んでいた。ところが夜間に屋上から泣き声が聞こえたり電話が鳴り止まないなどの怪奇現象が相次いだため次第に住人が減り、ついに無人のビルになったのである。

最後まで残っていた住人のひとりは深夜窓の外に気配を感じて視線を向けたとき、白いパジャマを着た人影を目撃したと証言している。

しかも怪奇現象は今でも続いているのだ。

無人のビルであるにも関わらず夜になるとビルの中には大勢の人の気配がするといわれている。しかもそれは単なる気配ではない。子供を叱るような声や大人同士の会話が聞こえてくると言うのである。

この情報がネットで拡散したためこのビルは心霊スポットとして有名になり「怖いもの見たさ」の若者たちを引き付ける結果になった。

現在は完全に封鎖されているため侵入は不可能であるが、当初は内部に侵入できたようだ。侵入に成功した人たちのコメントによるとビルの内部には人の手が届かない位置に不可解な詩が書かれていたという。

その詩の一部には「天上打雷」や「奇怪王雪」など奇妙な言葉がちりばめられていたという。

鬼楼出現の理由

建物が鬼楼に変貌する理由はひとつではない。瀋陽の鬼楼のように死者の霊が原因の場合もあるが、それだけではないのだ。

例えば神の領域を侵犯したために鬼楼が出現するケースもある。また風水的な原因によって鬼楼が出現することもある。

もっとも厄介なのは呪いである。特に中国の南方では呪いを仕掛ける呪術師が珍しくない。またそうした呪術師に呪いを依頼する習慣もある。

個別の住宅であれば呪いに対して呪い返しを行うなどの対策もありうるが、都市部の賃貸住宅が鬼楼になってしまった場合は早々に引っ越すのが現実的な対策なのである。

その結果として無人になってしまった鬼楼は中国各地に点在しているのだ。