食材としての猫
中国の岭南地域(広東、広西、海南と湖南、江西の一部地域)は「何でも食べる」地域として知られている。
特に広東は中国国内でもあらゆるものを食べる地域であると考えられている。
もちろん広東では猫も食材である。
しかも猫には薬膳的な薬効があると考えられているので、単なる食材以上の食品として珍重されているのだ。
広東には龍虎闘という蛇と猫の肉から作る名物料理がある。冬になると龍虎闘を注文する客が増えるそうだ。非常に美味であるという。
猫肉を扱う店のメニューには猫肉、猫脳、猫腸などの文字が記されている。
各部位を食べ分けるということは、猫が食材として定着していることを物語っている。
猫は調理される寸前まで生きている。
新鮮な猫を使っていることをアピールするために、生きている猫を客に見せる店も少なくないようだ。
活煮猫
猫料理の注文が入ると、厨房では金属の器具で猫の自由を奪い、頭部を棍棒で殴打して「半殺し」の状態にする。
料理のクオリティーを保つためには、ここで完全に息の根を止めてはならないようだ。
死にかけた猫を熱湯に入れ、さらに棍棒で叩きながら茹でる。
棍棒で叩くことによって味が良くなると言われているようだ。
このように生きたまま猫を茹でる下ごしらえを活煮猫または水煮活猫というそうだ。
猫が茹で上がったら専用の機械で毛を抜く。広東には猫の毛を抜くために作られた機械があるのだ。
毛を抜いた猫の身を白条猫と呼ぶ。
ここまで処理してから様々な料理に使われるのである。
猫はどこから来るのか?
猫を捕まえる職業の人たちを捉猫人という。
捉猫人は広東ではなく別の省で猫を捕えている。
中国での報道を見ると、南京や上海にも捉猫人はいるようだ。
彼らは猫捕り網や罠を使って猫を捕まえる。ひと晩に20匹ほどを捕えて收猫人と呼ばれる人たちに売り渡すのだ。
收猫人が集めた猫は生きたまま運猫人と呼ばれる業者の手に渡り、広東に運ばれるのである。
つまり広東で食用にされている猫は、もともとは大都市のノラ猫なのである。
さらに飼い猫を小鳥の肉でおびき寄せて捕える捉猫人もいるそうだから、誰かの飼い猫が食用にされている可能性もある。
食用のブタやウシは、一定のルールのもとで飼育されているが、ノラ猫や飼い猫は何を食べているかわからないし、どんな病原体に感染しているかもわからない。
しかし衛生面の危険性を指摘しても、以前から続いてきた習慣が急になくなることはないよだ。
中国全体から見れば猫を食べるのは一部の人だけなのだが、その「一部の人たち」の数が膨大なので、これは特殊なゲテモノ趣味ではなく地域文化ということになるだろう。
中国国内にも猫食文化を批判する人はたくさんいるが、批判されることによって、かえって「郷土愛」に目覚める人たちもいる。
広東の猫食文化は当分なくならないだろう。