盗電犯罪のピンキリ度合い

日常犯罪としての盗電

中国には「盗電」と呼ばれる犯罪がある。これは電気窃盗、電気ドロボーを指す言葉である。

あまり意識されていないが、日本でも電気窃盗は犯罪である。勝手によそのコンセントから充電などすると法律上はドロボーと同じ扱いになる。

しかしこのような行為は重大犯罪という感じはしない。犯罪だと思っていない人すらいるかもしれない。日本の電気窃盗はほとんど「寸借」レベルだからだろう。

これと比較すると中国の盗電はもっと重みがある犯罪である。

公共設備からの盗電

中国で盗電と言えば配線に手を加えて家庭の電源を他の家庭の電源から横取りしたり、電気メーターを迂回して電気を使うなど、要するに料金を払わずに電気を使うことを意味することが多い。

ちょっとだけ拝借するという遠慮がちな犯罪ではなく、家庭の電気代をまるまるタダにしてしまおうという大胆な行為なのだ。

盗電は電気会社にとって迷惑なだけではない。他人の家から電気を引いてくる盗電の被害者側に回るととんでもない請求が来ることになる。

実は中国に住んでいる日本人も被害に遭うことがあるのだ。

先ず外国人は電気代の相場を知らない。だから高額の電気代を請求されても「中国は電気が高いな」と思うくらいで電気が盗まれているという発想に至らないことが多いのだ。

後になって誰かから「その金額は異常だよ。盗電されてるんじゃない?」と聞いて初めて電気が盗まれていることに気づくことになる。

ひと月くらいならまだ被害額は少ないが、1年も放置しておくとかなりの金額になる。このレベルになると軽い犯罪では済まされない。

しかし盗電が発覚した場合は金銭賠償で処理されることが多いようだ。被害者からすれば犯人が捕まっても損害分の金銭が戻って来る保証はない。ちゃんと被害に見合った金銭を払ってくれれば、それ以外のことに拘っても仕方ないということなのだろう。

とある団地の集団盗電

中国の報道によれば南京に住民の大半が盗電に手を染めている団地があったそうだ。

いくら中国でも盗電をする場合には外から見えないように配線に手を加えるのが当たり前である。誰から見ても盗電しているとわかるようなやりかたはあり得ない。

しかし南京のその団地では送電線に直接電線をつないで自宅内に電気を引き込む手口が使われていた。一目瞭然。誰が見てもわかる堂々たる盗電である。

ある記者が理由を訊ねると、その団地の住民は貧困のせいで電気を止められ、電気メーターを封鎖されていたという。つまり直接送電線から電気を奪うしか方法がなかったのである。

その団地では住民の3分の2が盗電していたというから、集団心理がはたらいて恥ずかしいという気持ちが麻痺してしまったのかもしれない。

中国には「法不責衆」という四字熟語がある。

これは違反者があまりに多いとどうしようも無くなるという意味である。もともとは昔の中国で群衆が法に違反した場合に法の執行機関が放置するという「塩対応」から来た言葉である。

住民の3分の2が盗電していたのに放置されていたのは、まさしく「法不責衆」が発動した結果である。

電気の転売

個々の家庭が盗電をするのも困った問題だが、盗電にはさらに悪質なケースもある。その例を紹介しよう。

福建省泉州のとある養殖場が電力不足を理由に送電を止められてしまった。実は中国ではこのようなことは珍しくない。

外国の企業を誘致するためにインフラを整え優先的に電力を供給している上海ですら電気ストップが起きていた。地方の養殖場で電気が止められるのは不思議でも何でもないのだ。

しかし電気を止められる側にしてみれば死活問題である。工場なら生産停止になるし、養殖場では養殖している家畜が死ぬかもしれない。そうなれば回復不能の損害が生じることになる。

困り果てていた経営者のもとに電気を供給してやると言う「救世主」が現れた。詐欺師かもしれない。しかし養殖場経営者には断る選択肢など残されていなかった。藁をもつかむ気持ちで電気の供給を依頼したのである。

男は養殖場に送電線を引き、4つの電気メーターを設置した。工事が終わると男が言ったとおり養殖場には電気が供給されたのである。

その後電気メーターの記録に従って経営者は男に電気代を支払った。

男は何者なのか。なぜ電気不足なのに電気を供給できるのか。不審な点は多々あったが実際に電気が供給されている以上、それらすべての疑問点は重要な問題ではなかったのだ。

しかし電気の供給は長くは続かなかった。男が逮捕されたからである。

やはり電気の供給源に問題があったのだ。男は電力会社の送電線に電線をつなぎ、勝手に電気を転売していたのだ。つまり盗電である。

産業用の高圧電流を引き込むにはそれなりのリスクがある。電気工事の技術と知識がなければ命が危ない。しかもひとりでできるような犯罪でもない。大規模な電気工事を行えるだけの人員と設備を具えた犯罪集団が関与していたのだ。

さすがにこの規模の盗電になると警察も黙ってはいない。電気を転売した男たちは起訴され、有期徒刑2年の判決を受けている。

盗電の新たな用途

最近の中国ではビットコインのマイニングをするために盗電するケースも発生している。

盗電によるマイニング

ビットコインのマイニングには膨大な電力が必要であるが、電気代がタダになれば発掘したビットコインは丸儲けになる。

ビットコインの登場により盗電は電気代をタダにするという消極的な犯罪から、膨大な利益を生む積極的な犯罪に変化している。