国家指導者はなぜ長生きなのか?
中国では国家指導者の平均寿命が一般人よりも明らかに長い。
国家指導者ともなれば生活水準が高く、高度な医療を提供されるから寿命が長くなるのは当然だ。日本ではこのように考えるのが常識だろう。
しかし現在の中国には生活水準が高く、高度な医療を享受できる富裕層が少なくないのだ。
このような人たちに比べても国家指導者の平均寿命は長いと言われている。つまり中国の国家指導者たちは民間人には不可能な延命術を利用していると考えざるを得ないのだ。
続命術
中国では延命を続命という。
中国の国家指導は何か特別な続命術を用いているに違いないと考えられている。
これは現代中国に特有の現象ではない。中国では伝統的に国家支配者だけが独占する続命術が承継されてきた。
例えば太歳(たいさい)と呼ばれる霊薬による続命は古代の続命術の一例である。しかし太歳は自然採取するしかない希少な霊薬であったから、宮廷内の続命術は丹薬(たんやく)という特別な秘薬を服用するスタイルに移行した。
丹薬
中国の宮廷内には皇帝専属の医師がいた。
彼らは皇帝が病気になったときにだけ活躍していたのではない。彼らの最大の使命は病気の治療などではなく、皇帝の不老長寿を実現するための丹薬の製造だったのである。
丹薬製造の歴史は長い。
初期の丹薬は鉱物薬を用いた危険な薬であった。特に水銀の化合物を使った丹薬が多用された時期には、丹薬を服用することによって寿命を縮める皇帝が続出する時期もあったくらいだ。
確かに水銀には死から復活する神秘的な性質が具わっている。水銀を熱すると金属光沢をもっていた水銀は赤く変色する。これは水銀の死である。
しかし赤く変色した水銀にさらに熱を加えると元の金属光沢を回復するのだ。これは死からの復活を意味する。水銀にはこのような神秘的な性質が具わっているので、水銀を含む薬を服用することで不死身の体を手に入れることができると考えられていたのだ。
しかし水銀製剤は使い方を誤ると反って毒になる。明の時代には医学者の一部がすでに水銀の危険性を指摘しているのだ。そこで水銀よりも安全な丹薬の開発が行われた。
血液の利用
明の時代には処女の月経血を利用した丹薬が作られていたと言われている。
そもそも中国では人血は薬の一種と考えられていた。明代の医学書である『本草綱目』にも人血が収載されている。その記述を見ると、狂犬病の治療に効果があるとの古い医学者の説が紹介されている。
さらに月経血には刀傷を治すなどの効果があるとされている。人血よりも月経血の方が記述が長いところから判断すると、薬として利用される頻度は人血よりも月経血の方がはるかに高かったと言ってよいだろう。
『本草綱目』には少女の初潮が先天紅鉛、金華、首経などと呼ばれ、特別な薬として珍重されていたことをうかがわせる記述もある。
特に明代の宮廷医たちは処女の月経血には肉体を若返らせる神秘的な力があると考えていたようだ。
当時の宮廷内には月経血を採取するために処女が集められていた。彼女たちは月経を促進するための薬を飲まされ、丹薬の「原料」を絞り取られていたのだ。
あまりにも幼い少女に薬を飲ませて月経を促進していたことから、健康を害する少女も少なくなかったと言われている。
かつての権力者は少女たちの健康と命を犠牲にすることで延命作用と強壮作用を併せ持つ丹薬を手に入れていたのだ。
若い血液に続命の作用があるという思想は現代中国にも引き継がれている。
換血続命
現代中国では次のような噂が囁かれている。
ある国家指導者レベルの幹部は自分の血液型と同じ若い兵士を確保し、定期的にその兵士の血液を抜いて自分自身に輸血している。
老人の血液と若い兵士の血液を入れ替える続命術を換血続命という。
輸血という医療技術は長い中国の歴史の中では新しい技術である。この新しい技術が伝統的な思想、つまり若い血液に続命の作用があるという思想と結びついたのが換血続命なのだ。
このようなことは誰にでもできることではない。若者から血液を強引に奪うだけの権力が必要なのだ。
なぜ国家指導者の寿命が長いのかおわかりいただけただろう。
権力者は単に血液による続命という伝統を踏襲しているだけではない。若い生命を犠牲にして延命するという身勝手な思想をも継承しているのだ。
権力さえあればあらゆることが可能になる。だからこそ人体資源を利用した続命術の存在は不気味で恐ろしいのだ。