見えてしまう能力者

特殊能力

ごく稀に霊が見える人がいる。中国ではそのような人の能力を陰陽眼(いんようがん)という。

大多数の能力者は先天的に陰陽眼が開いている。しかしそれだけが全てではない。修行や特別な薬を服用することで後天的に陰陽眼が開くこともあるのだ。

実は陰陽眼の潜在力は全ての人にあると言われている。特に12歳以下の子供は陰陽眼が開きやすい。

子供の潜在力にも個人差がある。個人差は生まれた土地の環境と大きな関係があると言われている。

近くに山がある水辺で生まれた子供には強い潜在力がある。このような土地は風水的にも「宝地」とされている。土地の気と陰陽眼には何らかの関係があるのだろう。

また偶数月に生まれた男子と奇数月に生まれた女子の潜在力が強い。これは古代中国の陰陽理論とも合致している。

以上の条件を満たした子供は先天的に陰陽眼が開いていることも少なくない。陰陽眼が開いていない場合は次のようにすると陰陽眼が開くと言われている。

清明節の早朝に朝露を集めて瓶の中に保存する。集めた朝露に光が当たらないようにして3日寝かせる。その水を瞼に塗れば陰陽眼が開く。

このような比較的容易な方法で陰陽眼が開くのは子供の潜在力が高いからだ。

体験談

多くの子供は自分の陰陽眼を自覚していない。だから自分が見たものが霊的な存在であることに気がつかないことも多いのだ。

陝西省の田舎での話である。

ある農家に病弱でほとんど外出しない8歳の男子がいた。6歳のころから気管支炎を繰り返していたため、自宅で長い療養生活をしていたという。

彼には友達がいなかった。家族は朝から仕事に出てしまうため、誰とも会話をせずに過ごすことが多かった。

ある日の午後、彼は窓の向こうに人の気配を感じて起き上がった。庭の柿の木に実がなっていたので誰かが盗みに来たのではないかと思ったからだ。

当時の農村は非常に貧しかったので窓にはガラスではなく紙が貼られていた。部屋の中から直接外を見ることはできない。彼はわずかに窓を開けた。

細い隙間から外を見ると柿の木の下に自分よりも小さな子供たちが集まっていた。子供たちは地面に何かを画いて遊んでいるように見えた。

彼は子供たちが羨ましくなった。どんな遊びをしているのか気になって窓を大きく開けた。

すると子供たちは一斉に振り返り、彼のほうに視線を向けた。子供たちの顔は青黒かった。

彼は怖くなり窓を閉めようとした。その途端に子供の手が伸びてきて窓をつかんだ。窓から柿木までは大人の脚で10歩以上も離れている。恐怖で身動きができなくなった彼に子供たちが近づいてきた。

その時、見たこともない大きな白犬が現れた。

犬が子供たちに吠え掛かると子供たちは煙のように消えてしまったという。

帰って来た両親にこの話をすると、両親はすぐに仙婆を呼んだ。

仙婆とは霊的な能力をもつ女性である。

一部始終を聞いた仙婆は彼が見たものの意味を語った。

彼はその日死ぬことになっていたそうだ。子供たちは彼の魂を冥界に連れ去るためにやって来た使者だったのだ。

彼らの姿は普通の人間には見えない。しかし彼には使者が見えたので、魂を抜き取る段取りに狂いが出て命拾いしたというのだ。彼を助けに現れた白い犬は彼の家の守り神が姿を変えたものだそうだ。

仙婆が詳しく話を聞くと彼は普通の人には見えないものを度々見ていることが判明した。彼は陰陽眼の持ち主だったのだ。彼自身も仙婆の話を聞いて初めて自分の特殊な能力を知ったという。

しかし彼の陰陽眼は成長するとともに失われてしまった。成人してからは一度も異世界の存在を目撃していないそうだ。

このように開いていた陰陽眼が閉じることもある。このような能力者を「半開」と呼ぶこともあるそうだ。

陰陽眼の開眼法

12歳以上に成長すると陰陽眼の潜在力は弱くなり簡単には開眼しなくなる。

このことは古くから知られていた。歳を重ねることによって陰陽眼の潜在力が失われるのは、精神が穢れるからだと考えられている。

つまり陰陽眼は精神の清らかさの証明でもあるのだ。

陰陽眼を持つ人は単に霊が見えるだけではなく、霊を捉えたり霊と会話をすることもできると言われている。さらに陰陽眼を持つ人は寿命が長いとも言われているのだ。

霊が見えるのは必ずしも幸せなこととは言えないが、寿命が長くなると信じられていることから、陰陽眼を得たいと考える人は少なくない。

牛の泪

牛の泪を眼薬のように使うと陰陽眼を得ることができると言われている。

しかしこれは陰陽眼を得る儀式の一部だけを切り取った話である。実際には単に牛の泪を採取して目に入れても陰陽眼を得ることはできない。

牛に対して特別な呪法を行い、その結果として得られた泪を使わなければならないのだ。

目を瞑り柳の葉で瞼を擦ると鬼神が見えるようになるとも言われている。しかしこの方法も柳の葉に呪力を与える法力が無ければ効果はないのだ。

特別な苦行を重ねた者だけが人に陰陽眼を与える特殊能力を持つのだ。その修行には数十年という長い時間が必要だと言われている。

特殊能力をもつ人と出会わない限り成人に達した人が後天的に陰陽眼を得ることは難しい。しかし意図せずに偶然に陰陽眼を得るケースも報告されている。

角膜移植

陰陽眼の持ち主の角膜を移植されると陰陽眼の能力を受け継ぐことができる場合がある。

この現象は香港で角膜移植手術が行われるようになった直後に偶然発見されたと言われている。

当時は角膜移植により確実に能力を受け継ぐことができるとの噂が広がり、多くの能力者が殺されて眼球が奪われたそうだ。能力者の角膜が高額で取引されるケースもあったと言われている。

しかし移植手術を受けても能力が開花しないケースが多かった。陰陽眼は穢れた精神の持ち主には具わらないという古くからの言い伝えはやはり真実であろう。