ある農村の怪異
安徽省に鶏鳴村と呼ばれている村がある。これはその鶏鳴村での話である。
鶏鳴村では昔からほとんどの家でブタを飼育していた。
嫁を迎えて間もない李家でも大きなメスブタを飼っていた。結婚の祝いに親類から贈られたブタである。
嫁はそのブタに阿花という名をつけて大層可愛がっていたという。
ある日、嫁は川辺で草を刈り、帰って来た。
その草を阿花に食べさせたところ、しばらくして阿花は死んでしまった。
草の中に毒草が混じっていたのだ。
次の日の夜、嫁は裏庭の方からブタの鳴き声が聞こえてくることに気がついた。
その鳴き声は阿花の鳴き声に似ていた。
嫁は起き上がって外に出た。しかし裏庭には阿花の姿はなかった。そして鳴き声も止んでいたのである。
次の日の夜、再び裏庭の方からブタの鳴き声が聞こえてきた。
もう一度確かめてみようと思った嫁が起き上がると、夫は「阿花はもう死んだんだ。あれは阿花の幽霊だ」と言って引き留めた。
夫の言葉を聞いて嫁は確かにあの声は幽霊の仕業だと気がついた。
それと同時に恐ろしい話を思い出したのである。
猪児鬼
村には昔から猪児鬼という幽霊の話が伝わっていた。
ブタが中毒死すると猪児鬼という幽霊となって村に現れ、その村にブタの疫病を流行させるという話だ。
その言い伝えは本当だった。
しばらくすると村のブタが次々に病気に罹り、死に始めたのである。
言い伝えによると猪児鬼はブタの姿をした幽霊なのだが、その姿を見た村人はいなかった。
しかし突然流行り出したブタの伝染病は、間違いなく猪児鬼の祟りだと考えられた。
仙婆(シャーマン)に訊ねると、やはり村には猪児鬼がいるという。
猪児鬼は雄鶏を恐れると言われていた。その言い伝え通り雄鶏がいる家のブタは無事だった。
仙婆の話を聞いた村人は先を争うようにして雄鶏を飼い始めた。
すると不思議なことにブタの疫病は収まったそうだ。
それ以来、その村は鶏鳴村と呼ばれるようになったそうだ。
中国の農村には事故や病気で死んだ家畜、家禽は鬼になって祟るという言い伝えが少なくない。
霊魂は人間だけではなく動物にも存在するのだろう。