死体の背中に文字を刻んだ変態殺人者

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公安は直ちにSのアリバイを調査した。

すると何れの事件もSの犯行ではないことが明らかになった。

公安の捜査は完璧であったはずだ。しかし最終的に特定された人物は真犯人ではなかったのだ。

犯人は次の犯行を行う可能性があった。

公安は最終的には700人態勢で夜間の住宅地のパトロールを行った。

その結果、平均してひと晩に7人もの窃盗が逮捕されたが、肝心の殺人犯を捕えることはできなかった。

再検討

公安はもう一度捜査を振り返った。

犯人の足跡は科学的分析に基づいている。なぜ列車の乗客から絞り込んだ候補者の中に犯人が含まれていなかったのか?

公安は犯人と長時間会話を交わしたAから再度詳細な聞き取りを行った。

そしてもう一度その人物像を列車の乗客から絞り込んだ候補者と付き合わせた。

するとXという人物が浮かび上がった。

Xの容貌はAの証言とかなり近かった。

後に判明するのだが、Aに確認を依頼したとき、Xは歯茎の炎症で顔の輪郭が変化していた。そのせいでAはXを見過ごしていたのだ。

公安はXのDNAサンプルを入手し、未遂事件の被害者が破り取った覆面に残されていた犯人の汗から採取したDNAと照合した。

すると、ふたつのDNAは完全に一致したのである。

謎の犯行動機

公安はXの身柄を確保した。

Xはふたりの女性を殺害した事実をあっさりと認めた。

しかし犯行の動機に関しては、固く口を閉ざしたまま何も語ろうとしなかった。

捜査員が「変態」という言葉を口にすると、Xは強硬に否定した。自分は変態ではないというのだ。

では、なぜ女性を殺害し、性器に傷をつけたのか、背中に文字を刻んだのかと訊ねると、Xは「見るためだ、観賞するためだ」と答えたという。

そして「俺の気持ちはお前たちには絶対にわからない」と言ったそうだ。

Xには妻と子供がいた。

家庭内では山水画油絵を描き、偉人の名言を書いて壁に貼っていたという。

一見すると善良な夫であり父親であるが、Xには前科があった。

収監中に最初の妻から離婚を申し立てられ、離婚している。

Xが中年女性ばかりを狙ったのは、もしかすると結婚後数年経った女性に対して、強い敵愾心を抱いていたからかもしれない。

しかしこれも、あくまで推測である。

Xが被害者の背中に謎の文字を刻み付けた動機は、永遠の謎となってしまった。