黄泉の国からの使者「黒白無常」は実在する

ある村の伝説

中国には黒白無常が人間に姿を変えて現れるという話が非常に多い。例えば次のような話だ。

ある村に夫婦と子供ふたりの一家が引っ越してきた。

子供のうちのひとりは色が白く、もうひとりの子は色が黒かった。年齢は同じくらいに見えるが兄弟にしては似ていなかった。

その家族は村の外れに住み着き、山の中で猟をして暮らしていた。村の集落とはかなり離れていたので村人との交流はほとんどなかったそうだ。

数年後に父親が狩の最中に事故に遭って死亡した。悲しんだ母親も体調を崩しで間もなく亡くなってしまった。

村人たちは残された子供たちを当地の大地主のところへ連れて来た。行き場のないふたりの面倒を見てくれるように頼むためだ。

大地主は二人の子供が気に入らなかったが、断ると自分の評判に傷がつくのでいったんは承知した。しかしすぐに番頭格の男に何とかして子供たちを追い払う手はないかと相談を持ち掛けたのである。

謀略

番頭格の男は子供たちに落花生の倉庫の番をさせるように提案した。

そして自分の策略を囁いた。大地主はすぐに同意し、子供たちを屋敷から少し離れた落花生の倉庫に住まわせることにした。

数日後の夜、番頭格の男は手下を連れて倉庫に行き、落花生を盗み出した。そして落花生の殻を子供たちの小屋の近くに撒いて立ち去った。

翌朝、大地主が倉庫にやって来た。打合せどおり落花生の殻を「発見」した地主は子供たちが落花生を盗んだと騒ぎ立てた。

手下たちも倉庫の品を見張るべき役割を与えたのに、倉庫の品を盗むとは何事だと大声で怒鳴った。

これを聞いた村人たちは、子供たちはもうこの村には居られないだろうと思った。昔の農村では作物の窃盗は「できごころ」で済まされる問題ではなかったからだ。

身に覚えのない濡れ衣を着せられた子供たちは、その日の午後に首を吊って自殺してしまった。

因果応報

番頭格の男は最終的にふたりの子供を泥棒として役人に突き出す算段であった。

思いがけず子供たちが自殺したため、手間が省けたと言って笑ったそうだ。その日の晩には地主から上等な酒をふるまわれたという。

それからひと月ほど後のことである。大地主の娘が嫁入りをすることになった。

晴れた空の下を嫁入り行列が歩いていると突然突風が吹いた。その直後に花嫁の姿が消えてしまった。一瞬の出来事であったという。

手分けして村中を探し回った結果、神廟の前で乱舞している花嫁が発見された。花嫁の精神は完全に崩壊していた。

数人がかりで取り押さえたときには、赤い花嫁衣裳に汗が滲み、乱れた黒髪がまとわりついていたという。

その後遠方から名医と言われている医師を何人も呼んだが、娘の精神はついに回復しなかった。

しばらくすると番頭格の男が毒蛇に噛まれて急死した。

その頃になると死んだはずのふたりの子供の姿がたびたび目撃されるようになっていた。

大地主の家で不気味な事故が起きたのは、死んだ子供たちと何か関係があるのではないかという噂が広がった。

この噂は確信に変わる。落花生を盗んだ手下のひとりが恐怖に駆られて真相を話したからだ。

大地主に何も起きないはずはない。村人たちは地主の屋敷を避けて歩くようになった。村人たちの予測は的中した。ある風の強い夜、地主の家で火事が起きたのだ。

その火災で地主は主要な財産を失い行方知れずとなってしまった。