紅安県の大量殺人事件

農村の大量殺人事件

湖北省・黄岡市紅安県の中心部から西に20kmほど離れたところに上新集鎮がある。

当時の上新集鎮には多くの石灰工場があった。工場と言っても非常に零細な工場が多かった。

事件が起きた工場も部屋数3部屋の零細工場だった。

工場の周囲は荒地になっていて、100m四方に民家はなかったという。

2007年12月27日の朝、この工場で8名の遺体が発見された。

被害者は全員が石灰工場の従業員とその家族だった。

最年長者は67歳、最年少者はわずか9歳だった。

6名の遺体は屋内で発見され、2名の遺体は屋外で発見された。

そのうち5名は同じ部屋でテレビを観ていたところを襲われていた。つまり寝静まった深夜ではなく、まだ就寝前の時間帯に襲われているのだ。

遺体には刃物で切られた傷があったが、後の調査により鈍器による挫傷があることも判明した。

犯人は鈍器で襲い刃物で殺したのだ。

指を切り落とされていた遺体もあったという。

なお被害者の年齢と関係性は以下とおりである。

汪世書(56歳) 経営者
陳小潤(54歳) 経営者の妻
汪春蓮(32歳) 経営者のいとこ
呉小発(33歳) 汪春蓮の夫
呉梁波(9歳) 呉小発・汪春蓮の子
汪世軍(60歳代)作業員
黄世貴(60歳代)作業員
袁某(60歳代) 作業員

つまりこの事件は呉梁波の一家三人皆殺し事件でもあるのだ。

謎の殺害動機

石灰工場の経営者には目立った資産はなかった。

警察の調査によっても金銭が奪われた形跡はなかった。

つまりこの事件は金銭を狙っての犯行ではないと考えられる。

このような場合には警察は女性関係を調査するようだ。

会社の経営者には往々にして愛人がおり、その愛人に別の男がいる場合などに、痴情のもつれで殺人事件に発展することもあるからだ。

しかし石灰工場の経営者には女性関係は全くなかった。

そもそも愛人を囲うほどの余裕が無かったようだ。

当時この事件は「湖北省における建国以来最大の大量殺人」と言われた。

これだけの大量殺人事件の動機としては、怨恨しか考えられなかった。

そうだとすれば、何らかの密接な接触があった人物が犯人だということになる。

不可解な行動

この事件の直前に石灰工場の経営者は工場を売りに出していた。

交渉の結果12万元で売り渡す話がまとまっていたそうだ。

この工場を買い取ることになっていた人物の証言によると、経営者は工場を手放した後に武漢に移住するつもりだと語っていたそうだ。

しかし代金の12万元を支払う前に経営者は殺されてしまったのだ。

工場経営者は地元の何者かとトラブルになり、工場を売り渡して別の土地に移り住もうとしたのではないかという推測も成り立つと言うのだ。

ただし誰とどのようなトラブルがあったのかについては、具体的な人物像が浮かび上がっていない。

この事件が工場の売却と何らかの関係があるのかどうかについては、確定的なことは何もわかっていない。

謎の犯人像

8名もの被害者が殺害されたのだから、通常は複数の人物による犯行だと考えるのが順当だろう。

そうだとすれば、何らかの組織から制裁を受けたという推測が成り立つ。

現地では借金を返済できなかったために皆殺しにされたとの噂も流れたそうだ。

しかし警察の調べでは経営者に大きな借金はなかったという。

そもそも大量殺人が複数犯だという必然性はない。

他の記事で紹介した一家皆殺し事件の中には単独犯のケースも少なくない。

つまりこの事件は単独犯か複数犯かすらも明らかになっていないのだ。

これだけの事件を起こすのだから、犯人と被害者には何らかの接点があったはずだ。

しかもそれはかなり濃密な関係であった可能性が高い。

そうだとすれば犯人の候補はかなり絞り込まれるはずだ。

そうであるにも関わらず、いまだに犯人は検挙されていない。

そのため犯人は地元警察と癒着した黒道(ヤクザ組織)だとの噂も囁かれている。

しかしこの噂にも確たる根拠があるわけではないようだ。

恐らくこの事件は永遠に未解決のまま風化してしまうだろう。