増殖する地下の軍事施設

曹操運兵道

中国人はかなり以前から地下の軍事施設を建設してきた。

最も有名な施設は安徽省亳州市(はくしゅうし)の曹操運兵道だろう。

曹操運兵道は、あの乱世の奸雄・曹操(155年から220年)が密かに軍事物資や兵を移動させるために建設した地下通路であり、現在明らかになっているだけでも全長8キロメートルの規模がある。

曹操運兵道の内部

曹操運兵道は曹操の死後も軍用施設として利用されて来た。

その存在自体が国家の最高機密とされ、その全貌を把握していたのは朝廷や軍の上層部だけだったと言われている。

文字の記録にも詳細は記されていないので、かつてどれほどの規模があったのか、現在では誰にもわからなくなっている。

なぜなら亳州は南宋時代の嘉熙4年(1240年)に黄河の氾濫で水没し、その際に曹操運兵道の大部分が埋まってしまったからだ。

その後700年ほどのあいだ曹操運兵道は忘れさられていた。

1938年になって曹操運兵道の跡が発見され、さらに毛沢東の時代に防空壕建設が奨励されたため、曹操運兵道の修復が行われたのだ。

再建工事の過程で、曹操運兵道は曹操の時代以後も数百年のあいだ拡張され続けていたことが判明している。後の時代のレンガが発見されたからだ。

亳州の地下には、いまだに知られていない迷宮のような大規模構造が隠されているのだ。

曹操運兵道は地下の軍事施設の一例に過ぎない。

河北や広西など、中国の各地には、曹操運兵道と同様の地下施設が点在しているのだ。

地下の軍事施設建設は中国の軍部に脈々と承継されてきた隠された伝統のひとつなのである。

現代中国の地下長城

軍事用の地下施設の中でも特に長いトンネル状の構造を持つものを中国では地下長城と呼んでいる。

中国には曹操運兵道のような古い地下長城だけではなく、人民解放軍の時代に入ってから建設された無数の地下長城が存在する。

軍の地下施設の位置、規模、機能などに関する情報は軍事機密に属するが、その一部は外部に漏洩している。

特にミサイルの発射設備を具えている地下基地は、外国の軍事衛星による探索で大部分が特定されていると言われている。

外国からのリークで地下基地の情報が明らかになり、ネットその他のメディアを通じて中国人に伝わるケースもある。

また中国当局が地下の軍事設備を公開する例もある。中国には軍の影響下にある雑誌やテレビ番組などのメディアが存在する。

そうしたメディアが基地内部の映像などを公開することは珍しくない。その中に地下の施設が含まれるケースがあるのだ。

もちろん公開しても問題のない情報を選んで公開しているのだが、専門家が見れば、配管の特徴や施設上部の形状などから、どの企業の技術をベースに建設されたか、建設されてからどの程度の年月が経過しているかなど、意外に多くの情報を得ることができるようだ。

公式非公式の情報の中で語られている内容を総合すると、現在の中国軍は核戦争を想定した地下基地建設を続けているようだ。

華中、華北の山岳地帯の地下には、すでに全長5000キロメートルの地下長城が建設されていると言われている。

地下長城の内部は核ミサイルが移動できるほど巨大であり、核ミサイルの攻撃を受けても耐えられるだけの強度があるという。

興味深いことに、この情報の主要部分はアメリカのメディアが発信したものだ。

なぜアメリカは人民解放軍の地下長城建設について詳細な情報をつかむことができたのだろうか?

中国では軍事衛星による探索の結果だと説明されている。しかしこれは不十分な説明である。

軍事衛星による情報だけで地下施設の全長を知ることはできない。詳しい内部情報は、人的なネットワークがなければ入手することは不可能である。

こうした情報の存在そのものが、人民解放軍内部に浸透したスパイの存在を証明しているのだ。

では中国の軍事情報はアメリカに筒抜けなのだろうか?

実はそう単純ではない。

中国の諜報組織はカウンターインテリジェンスに長けている。これは台湾との長年の暗闘の結果である。

中国は台湾のスパイを摘発する活動の中で、アメリカのスパイ活動についての情報も蓄積してきたのだ。

中国はアメリカおよび台湾のスパイの大多数を特定していると言われている。しかし摘発せずに泳がせているのだ。

これは段雲鹏(だんうんぽう:1904年から1967年)を逮捕した後の成功体験に基づく手法だと言われている。

段雲鹏

台湾の諜報組織に属していた段雲鹏は、中国に入国して公安に捉えられた。しかし逮捕の事実は厳重に秘匿された。当時の状況では、段雲鹏が逮捕された事実を台湾側が察知することができなかったようだ。

中国の公安当局は段雲鹏に成りすまして台湾にニセの情報を送り、台湾の諜報組織から外貨や諜報用の物資、装置を騙し取ることに成功している。

つまりスパイには大きな利用価値があることを学んだのだ。

現在の中国ではスパイの身柄を確保すれば直ちにその情報が本国に伝わる。段雲鹏の時代に比べて、通信技術が格段に進歩したからだ。

だから泳がせるのである。

そして何食わぬ顔でスパイに情報を提供する。もちろん戦略的に選び抜かれた情報を与えるのだ。

地下長城のデータは、中国が意図的にアメリカに与えた情報だと言われている。

アメリカの核攻撃に対して中国は万全の備えをしているというメッセージなのだ。

だからアメリカに渡った情報の中には、地下長城の弱点を知る手掛かりは含まれていないのだ。

アメリカに渡った情報がメディアに流れたため、アメリカ以外の国にも中国の軍事施設の充実ぶりが伝わった。

全ては「中国と戦争するのは無謀だ」と思わせるための情報戦略なのだ。

本当の軍事機密はそうやすやすと一般人の目に触れることはないし、メディアに流れることもないのである。

Posted by 編集長 妙佛大爺

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