女性が人魚に変化する怪奇現象の記録

奉節県の怪事件

袁枚(えんばい:1716年から1797年)の『子不語』に「人変魚」という話が載っている。

それは現在の奉節県(ほうせつけん)という土地でのエピソードである。

なお、奉節県は重慶の北東に位置する長江流域の街だ。三峡ダムの建設によって一部が水没しているため、このエピソードがあった土地は今は水面下に沈んでいる可能性がある。

致華(ちか)という人が四川から淮南(わいなん)に向かう途中で奉節県を通過したところ、往来の人たちが大騒ぎをしていた。

話を聞いてみると実に奇怪な事件が発生したという。

ある村で徐(じょ)という女性が寝ているあいだに、人魚に変わってしまったというのだ。

その女性の顔、髪、肌は元のままであるが、下半身だけが魚に変ってしまったそうである。

女性の話を聞いた人物は、女性が次のように話していたという。

寝ているあいだに下半身に痒みを感じて掻いたところ、皮膚が固くなってきた。

五更(ごこう:朝朝5時ころ)を過ぎたころから両脚が接合し始め、ついには伸ばすことも縮めることも出来なくなった。

撫でてみると下半身は魚の尾になっていた。

人々は、その女性の乳から下は鱗に覆われていてなまぐさく、まるっきり魚と同様であると言っていた。

その話を聞いた致華は事の真偽を確かめるために人を走らせた。その結果、人々の噂は真実であることが確認されたそうだ。

致華は任官のための旅の途中であったから、それ以上奉節県に留まることはできなかった。

だから残念なことに人魚になってしまった女性がその後どうなったかについての記録は残されていない。

魚のDNA

ヒトの祖先を遡ると最終的には海洋生物につながると言われている。

だからヒトのDNAには魚のDNAが組み込まれているのだ。

その証拠に初期のヒトの胎児は孵化したばかりの魚の稚魚と非常によく似ているのだ。

しかし魚のDNAは成長するにしたがって封印される。ただし魚のDNAは無くなるのではない。ただ働きを止められるだけなのだ。

では魚のDNAが再び封印を解かれたらどうなるのだろうか?

言うまでもなく我々の体は「魚化」する。イモムシがチョウに変化するように、体の一部が完全に別の姿に変わってしまうこともありうるのだ。

『子不語』に記録された「人変魚」の話も「魚化」したヒトの実例であろう。

人魚の種類

人が「魚化」した人魚は人々が「人魚」と呼ぶ存在の一部分にすぎない。人魚には様々な種類があるのだ。

大きく分ければ次の3種である。

ヒトが「魚化」した人魚
もともと水の中に棲んでいる人魚
霊的な存在(海和尚などの妖怪)

中国で語られる人魚の多くは2番目と3番目のタイプが多い。

ヒトのDNAに組み込まれている遠い祖先(魚)のDNAが、出生後に働きだすことはほとんどないからだ。

しかし何らかの特別な刺激を受けることによって、封印されていたDNAが始動することはありうる。

例えば特殊なウイルスに感染することなどがきっかけになりうるのだ。

魚のDNAは全てのヒトの体の中に存在する。次に人魚になるのはあなたかもしれない。