狗骨鎮の赤鬼虫

治療法の秘密

Lが狗骨鎮に来る1年程前にAは黒変風に感染していた。

幸いAの家には貯えがあったので、Aの家族は老道に治療を依頼した。5日後の夜に、Aは担架に乗せられて神廟に運ばれた。

薄暗い部屋の中で老道とふたりの男が待っていた。ふたりの男には見覚えがあった。ふだんから神廟の掃除などをしている若者である。

3人の足元には布で口を塞がれ、手足を縛られた少女が横たわっていた。見たことのない少女であった。

老道は黒変風を治すには処女の生き胆を食べるしかないと告げた。縛られている少女は、どこか別の村から連れて来られたのだろう。

Aは薄気味悪くなった。しかしAの家族は全てを承知している様子であった。

ふたりの男が少女の体を押さえつけ、鋭い刃物で腹を裂いた。淡々とした手慣れた手つきであったという。

取り出された胆は、薄暗い部屋の中で黒い塊のようにしか見えなかった。死にたくないという一心でAはその胆を食べた。血と苦みが混じり合った味がしたそうだ。

黒変風に罹って助かった連中は皆人殺しと同じだ。

酔ったAは自嘲気味にそう言ったというのだ。

付記

LはZに黒変風を研究し、薬による治療法を見出すように言い残した。そうしなければ、これから先も治療のために処女の命が奪われ続けるというのだ。

この話をしてからひと月も経たないうちにL医師は死去した。

遺体を検めたZは、自分の予想が的中したことに暗澹たる気持ちになったという。Lの腹部の皮膚はどす黒く変色していたのだ。

Lの死後、Zは雲南省の地図を広げて狗骨鎮という村を探した。しかしいくら探してみても、そのような名の村は見つからなかった。

恐らく正式な地名ではなく現地での呼び名なのだろう。こういうことはよくあるのだ。

もし地図上に狗骨鎮という村を見出したら、Z医師は黒変風の研究を開始しただろうか?

狗骨鎮がどこにあるのかわからない。このことを幸運と考えているとZ医師は正直に告白した。