中国で発生した「一家皆殺し」の実例

饒河県滅門案

事件現場:黒竜江省双鴨山市饒河県西風鎮
事件発生日:1991年3月5日
被害人数:6名
捜査状況:解決

これまではスピード解決した事件を紹介してきたが、このようなケースは稀である。事件解決まで20年以上かかった一家皆殺し事件を紹介しよう。

1990年、吉林省遼源市で強盗殺人事件が発生した。

この事件の犯人Gは、黒竜江省双鴨山市の饒河県(じょうがけん)に逃亡した。

1991年3月5日、Gは饒河県の西風鎮という村の民家に侵入し、一家6人を殺害した。最高齢の被害者は80歳、最年少は11歳の児童だった。

その後Gは再び別の土地に逃亡し、行方がわからなくなっていた。

Gは事件現場に自分自身の身分証明書を遺留するという信じられないミスを犯している。

しかしそのことに気づいていたGは、別人の身分証明書(拾ったと証言したようだ)を使って他人に成りすましたため、公安は手がかりをつかむことができなかったのだ。

これは後に明らかになったことであるが、事件後Gは妻の所へ行き、山東省の親戚の家に潜伏した後に新疆に高飛びしていた。

その後、妻を呼び寄せて新疆の伊寧という街に定住した。カザフスタンの国境まで100kmほどの所にある小さな街だ。

Gは伊寧でも他人に成りすまして生活を続けた。

銀行口座を開設すると他人の身分証明書を使っていることがバレる可能性があるので、銀行口座すら開いていなかったようだ。

この用心深さのせいでGは20年以上も逃げ延びていたのだ。

しかし公安は諦めていなかった。

事件から25年が経過した2016年5月、Gは妻の本名を使って携帯電話の手続きをした。

事件後、Gは妻も公安にマークされていた。妻の名が使われたことは直ちに公安に察知されたのだ。

犯人の携帯を特定できたことは公安にとっては大きな収穫であった。

ここまでくれば電波の解析によって対象者の所在地を特定できるからだ。

結局Gは伊寧で饒河県から派遣された7名の公安職員に逮捕された。

この結果、一家皆殺しの動機が明らかになった。

Gには強姦事件で有罪になり服役した前科があった。

公安は殺害された家族の中の女性を強姦しようとして抵抗されたため、腹いせに一家全員を殺害したものだと考えていた。

しかし殺害動機は公安が想定していた動機とは大きく異なっていた。

Gは強盗殺人事件を起こしたのち饒河県西風鎮に潜伏していたのだが、その間にGの妻が会いに来ていたようだ。

具体的な内容は明らかではないが、Gの妻が被害者家族のひとりから、からかわれたことがあったそうだ。

それを聞いたGは恨みを抱き、事件当日の早朝、斧を持って被害者宅に侵入した。

最初にトイレの中にいた女性を殺害(供述によるとこの女性が妻をからかったそうだ)し、それから残りの家族全員を次々に殺害したのである。

一家皆殺しと聞くと、通常では考えられないほどの大きな恨みが背景にあると考えがちだが、このように「妻がからかわれた」ことでも大量殺人の動機になりうるのである。