金運を運ぶ古曼童の扱い方

古曼童

タイには中国人が古曼童または金童子と呼ばれる子供の形をした人形がある。

古曼童は数百年前からタイに伝わる呪物であるが、中国人に非常に人気がある。古曼童は所有者に金運を運んで来ると信じられているからだ。

しかし古曼童の役割は金運向上だけではない。タイでは厄除けの聖物としても珍重されている。

呪力の源泉

古曼童には確かに呪力がある。古曼童によって巨万の富を手にした人は少なくないのだ。

しかしタイで大量に販売されている古曼童の全てに強力な呪力が秘められているわけではない。

本物の古曼童には所有者に幸運を運ぶ霊魂が宿っている。霊魂の力こそが古曼童の呪力の源泉なのだ。

古曼童の由来

古曼童を最初に作成したのはアユタヤ朝時代の将軍である坤平(Khun Paen:クンペーン)であると言われている。

坤平は「魔術師」の異名をとるほど呪術に精通した人物であった。

あるとき坤平は敵対勢力の土地を攻略し、その土地の支配者と良好な関係を築くために支配者の娘と結婚した。

しばらくしてその娘は懐妊したが、土地の支配者と坤平の関係が悪化したため、支配者は娘に坤平を毒殺するよう命じた。

しかし坤平は毒殺の計画を察知し、先に妻を刺殺して復讐の意思を示したのだ。

その後、坤平は妻の死体の腹を裂いて胎児を取り出した。

その胎児を持って寺院の部屋に入り、厳重に戸締りをしてから特殊な儀式を行ったと言われている。

その詳細は明らかではないが、胎児の体に経文を記した布を巻き付け、炎で炙って乾燥させたようである。この結果、胎児は完全に乾燥し、非常に小さく変形した。

このようにして作られたのが古曼童なのである。

古曼童には意思があり、坤平の願いを叶えたという。古曼童の呪力により、坤平は常勝将軍になったのだ。

つまり古曼童は本来胎児から作られるものだったのだ。

このような呪物は現在でも存在し、人胎鬼仔、鬼王、小鬼王、路過、碌葛観などと呼ばれている。

中国では人胎鬼仔の密輸が摘発されたり、芸能人が人胎鬼仔を購入しているというゴシップがしばしば報道されている。

言うまでもないが、現在のタイで一般的に販売されている古曼童は、人工的に作られた人形である。胎児や嬰児の死体を使って作られる呪物は通常は入手できない。

ただし市販されている古曼童の中にも人間の霊魂が込められていることが無いわけではない。

古曼童の種類

古曼童には製作者の違いによる区別や、古曼童に込められる霊魂の種類に応じて、非常に多くの分類がある。

古曼童の呪力は作成者の能力や作成の作法によって大きく変化すると言われている。

古曼童の製作者は僧侶、在家修行者、降頭師と呼ばれる呪術師などである。一般的には高僧が作る古曼童にこそ強い呪力が宿ると考えられているようだ。

大量に流通している古曼童の大部分は、十分な呪力を持たない降頭師が作成するケースが多いようだ。

古曼童に込められる霊魂の種類による分類は非常に細かいが、大きなカテゴリとしては次のようなものがある。

地童古曼

地童古曼は律過古曼とも呼ばれる古曼童だ。

律過とは母体内で死亡した胎児を意味する。もちろん人間の胎児をも含むが、古曼童の作成に関しては、通常は猫の胎児を意味することが多い。

古曼童に宿る霊力は「この世」に残した思念の強さによって決まると言われている。律過には、生まれる前に死亡したことに対する強い怨念が凝縮されているため、この怨念を人形に移すことで強力な古曼童が作られる。

しかしさらに強い怨念を持つ律過が存在する。それは自分自身と同時に母体が死亡した場合の律過だ。

自分の死に対する怨念だけではなく、母体の死に対する怨気が加わることで、非常に強い霊的エネルギーが生じるのだ。

怨念は陰気(負のベクトルを持つ霊的エネルギー)であるから、陽気(正のベクトルを持つ霊的エネルギー)に転換する呪力を持つ製作者でなければ、運気向上の古曼童に仕上げることはできない。

黒い呪術師の中には陰料と呼ばれる呪物、例えば遺骨の粉、屍油などを用いることで、さらに陰気を増大させて他人を害するための呪物を作る者もいるそうだ。

人童古曼

人間の霊魂を宿した古曼童は人童古曼と呼ばれている。

人童古曼は12歳までに死亡した子供の霊魂を宿しているのだ。このため人童古曼は人間の子供に近い性格をもつことが多い。

しっかりと礼拝すれば所有者を喜ばせるために活動する。だから人童古曼の「ご利益」は大きい。

しかし礼拝を少しでも怠ると禍をもたらすと言われている。

さらに夢の中で遊びや食べ物を要求することが多く、これに従わなければ不幸が訪れると言われている。

人童古曼の祭壇には炭酸飲料やキャンディー、ビスケットなどを捧げるのが一般的である。最近ではヤクルトを要求する人童古曼も存在するようだ。

また遊園地に行きたいと要求された場合には、人童古曼を携帯して遊園地に行かなければならない。

人童古曼を手に入れるのであれば、子供がひとり増えるのと同じくらい手間がかかることを覚悟しなければならないのだ。

天童古曼

天童古曼は仙童古曼とも呼ばれている。

天童古曼は天童古曼法という特別な作成法を受け継いだ作成者だけが作ることができるとされている古曼童だ。

天童古曼法は坤平将軍の呪法を受け継ぐ流派ではなく、仙童と呼ばれる霊的な存在から伝授された秘術だと言われている。

天童古曼は6歳になる前に死亡した人間の魂を召喚して作成される。そのためには特別な法力が必要とされるため、天童古曼を作成することができる人は非常に少ないそうだ。

天童古曼の特徴は陽気である。天童古曼は正のベクトルを持つ霊力を宿した古曼童なのだ。

天童古曼の本体も怨念を残して死亡した子供の霊魂なのであるが、天童古曼法により怨念は鎮められ、所有者に幸運を運ぶ霊的なエネルギーに転換されるのである。

天童古曼を手に入れた人は例外なく金運をつかむと信じられている。

祀り方

古曼童を持ち帰る前に必ず屋内の神に報告する必要がある。

どの家にも門神という守護神がいるので、無断で霊的な存在を持ち込むと摩擦が生じる可能性があるからだ。

古曼童には個別の祭壇を用意しなければならない。神棚や仏壇に安置してはならないのだ。

古曼童は霊的な存在ではあるが、子供の精神性を受け継いでいるので、神と同列に扱われることに抵抗を示すと言われている。むしろ家族の一員のように扱うのが正しいのだ。

本来なら旅行にも連れて行くべきなのだが、古曼童を残して家を空ける場合には事前に説明しなければならない。

古曼童を孤独な状態に置くことは、子供を置き去りにするのと同程度に恨みを買う行為なのだ。

特に堕胎された胎児の霊魂を宿している古曼童を孤独な状態にしてしまうと、親に捨てられた怨念が爆発して、大きな不幸を呼び寄せることになるのだ。

古曼童への礼拝は形式的なものであってはならない。

家族同様に朝晩のあいさつをすることが重要である。そして菓子や玩具など子供が喜ぶ物を供物として捧げるのだ。

何を捧げるか迷う必要はない。古曼童は所有者の夢や直観を通じて、自分自身の要求を伝えて来るからだ。

家に客を招く場合などには事前に古曼童に伝えておく必要がある。見知らぬ人物に対して古曼童は怪奇現象を起こして「いたずら」をすることがあるからだ。

以上のように古曼童は非常に手間のかかる存在である。

単に幸運をつかむために古曼童を入手するのは馬鹿げた行為だ。家族をひとり増やすくらいの覚悟がなければ手を出すべきではない。